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山の上でオフグリッドな電力の実験、始まってます。

ROKKONOMADの敷地内に、オフグリッド※な仕事部屋を株式会社ロケットバッテリーとの共同実験でつくっています!

昨年12月にROKKONOMADの森の中に設置された、最大8人で会議や作業ができる離れ部屋、通称“オレンジ・ハット”。ここではオフグリッドの実験も行われている。

※オフグリッド……送電網につながっていない状態で電力供給していること。

ROKKONOMADの敷地内、木立の間に設置されたオレンジ色の小屋。陽の光を浴びながら森の中で会議できればと新たに設けた空間ですが、ここではひそかに電力供給の実験も行われています。

現代のワーカーはPCさえあれば多様な場所で作業をすることが可能になったわけですが、逆に言えばこれがなければ成り立たぬという生命線も明白で、そのひとつがインターネットのWiFi、そしてもうひとつは電源です。山上や離島は最高に爽快で、心地よい気持ちの切り替えをもたらしてくれ、集中力も高めてくれる環境として申し分ないですが、ワークスペースとして活用することができるかどうかはこの点にかかっています。

もっとも六甲山においては、明治の始めから外国人が先頭に立って生活圏の一部として切り拓いてきた歴史があるため、山上であっても基本的なライフラインは整っています。電気ガス水道はもちろん、郵便物も宅配便も街にいるのとまったく同じように配達され、郵便局だってあります。ネット環境こそ数年前までADSLでしたが、2020年12月に光回線が開通、山上でも問題なくビデオチャットや大容量データのやり取りができるようになりました。

今回、小屋に設置された2kwhの充電池。この場所で使う電気をこれで賄っていく。

ただ、環境的により改善するならば、整備したいひとつは非常用電源/ポータブル電源でした。山上では台風によって停電が起き、復旧に時間がかかるケースが時折あります。また、ポータブルな電源であれば、建物の外に持ち出して、より自然を感じながら作業をすることも可能となります。というわけでROKKONOMADでは、高性能リチウムイオンバッテリーを用いたビジネスを推進しているスタートアップ、株式会社ロケットバッテリーとの共同実験を始めました。ロケットバッテリーはバッテリー市場においてのシェアが急激に上がりつつあるリン酸鉄型の良質リチウムイオン充電池を製造する中国の電池ブランドと連携しながら独自製品を開発しています。「電池自体に違いがあり、リチウムイオンバッテリーの中でも安全性や長寿命の点で自信を持っています。充放電のサイクルも3000〜5000回と高い数値を出せています」(株式会社ロケットバッテリー研究開発責任者・北山 浩さん)

株式会社ロケットバッテリーの北山さん(左)と橋本さん。

今回ROKKONOMADの離れに設置したのは2kwh(キロワットアワー)※の充電池1基。「一般的に4人家族が一日に使用する電力量は10kw程度、一人暮らしだったら2〜3kwと言われます。あるいは電気製品の消費電力を参考にするなら、電気ストーブは900〜1000w、電子レンジは500w〜1000w程度と考えられますから(目安。製品によって異なります)、小屋の中で電気ストーブをつけっぱなしで2時間使える計算となります。ケトルやレンジを点けるのはせいぜい数分ですから併用はできるでしょう。またバッテリー1基で2kwhですから、連結すれば4kwh、6kwhといった電力を使えるようになります」(北山さん)

※wh(ワットアワー)……蓄えた電気を1時間あたりどれくらい使用できるかの量を示す単位。1kwhの蓄電池であれば1000wの電気製品を連続で1時間使用できる。500wの製品なら、2時間もつ。

「普段一般家庭で使うような贅沢な使い方では難しいと思いますが、非常時など、節約しながら使えば、2kwhのバッテリーでも一晩くらいなら電力をもたせられるのではないかと思います」

実は、ロケットバッテリーの皆さんとは以前にも一度共同実験を行ったことがあります。須磨海岸のビーチで開催したファーマーズマーケットの秋のお祭りの際に、ソーラーパネルと蓄電池を積んだ小屋を砂浜の上に設置して、そこで発電された電気を充電池にためて、イベントに必要な電力を賄ったのです。山上と同様、浜辺も電力を引っ張ってくるのは難しいロケーションですが、使用したリチウムイオンバッテリーは2kwhのものを3基積んでいたので、イベントで使用する電力を賄う分にはまったく問題ありませんでした。

ファーマーズマーケットのイベントの際に須磨ビーチにお目見えした、ソーラーパネルとバッテリーを搭載したタイニーハウス。電力供給は最大で6kwh。設計は施工集団のTEAMクラプトン。 写真提供=TEAMクラプトン

なお、この小屋は自動車で牽引できる仕様になっており、いろんな場所に移動して使うことができるつくりになっています。前述したように、ひとり暮らしの人が一日の電力使用量平均は2~3kwなので、単身者であればこの車を運んだ先で寝起きしながら、一日電気を使ってもおつりが来る計算です。たとえば農地の隅にこの車を置いたとして、電動農機具をこの車のコンセントに差して使用して畑仕事をしたり、冷蔵庫を使ったり、ノートPCで事務作業をしたり、その場所で一日過ごすための電気に不安はないと思われます。

ソーラーパネルが張られた屋根をたたむとこのような形状になる。 写真提供=TEAMクラプトン

株式会社ロケットバッテリーは、つい先日まで神戸市内、旧居留地に設置されたUNOPS GIC(国連が主宰する、SDGsの課題解決に貢献する新しい製品やサービスを創出することを目的に活動するスタートアップ事業者を支援するためのインキュベーション施設。アジアでは初の設置)に入居していましたが、それはアフリカ・ルワンダに同社の発電・充電技術を生かして電力供給を行う事業にも関わっているからです。キヴコールドグループという、神戸市とルワンダの経済交流がきっかけで生まれたジョイントベンチャーに、ロケットバッテリーも参画。送電網のない場所に、電力を供給できるようにすることでアフリカの「ポストハーベストロス(収穫された農作物を冷蔵保管できず途中で腐ってしまい、廃棄されてしまうこと)」を減らす活動にチャレンジしています。 

春になり陽気も良くなってきたので、この場所をワークスペースとしてより積極的に運用していくつもりです!

充電池として昔から使われてきた鉛電池に比べて、リチウムイオン電池は軽量でコンパクト、長寿命で、低い放電率を誇ります。また世界的に近年、鉛電池からリチウムイオン電池への移行が急速に進んでいる一番の理由は環境に与える負荷の低さからでしょう。鉛電池のもとになっている鉛と電解液は環境中に放出された場合に自然環境汚染につながり、また人体への影響も指摘されています。リサイクルしやすいという利点も鉛にはあるので、適正に処理をされれば必ずしも地球への負荷を高めるものではないかもしれませんが、廃鉛バッテリーの処理環境の整備が課題として挙げられています。他方、リチウムイオン電池のデメリットと言われているのは価格の高さと言われていますが(だいたい相場的には1kwhあたり10万円とされる)、ロケットバッテリー社はその低価格化にも尽力しようとしています。  

私たちのワーキングロケーションがより自由になるためには、パワーグリッド(送電網)が行き届かない山上や離島などでいかに快適な電力供給が可能になるかが肝心で、その際に自家発電と共に大容量で安定・安全なバッテリーが鍵を握るでしょう。また、新たな活用提案が求められている各地方の自然公園などでも、非常用にも使えるポータブル電源を伴ったオフグリッド・キャビンを上手くプロデュースすることができれば、グランピングであるとか、面白いアウトドア空間の使い方がもっと実現しやすくなるかもしれません。もちろん地震や台風などといった災害時の安心になってくれることも期待しつつ。今、山の上で小さな実験を行っているところです。

(コラム執筆=安田洋平)