NEWS&COLUMN

ロコノマドからのお知らせやコラムを紹介しています。

六甲山で暮らすリアル Vol.5 六甲山の上は絵本の世界みたい

ご自宅の前で。インタビューさせていただいた藤本 愛さん。

4人家族で六甲山の一軒家に暮らす藤本さん。奥様の愛さんにお話を聞くことができました。移り住むきっかけは旦那さん。まず淡路島の物件を見つけてこられ、魅力を感じつつも街との距離を考えて躊躇したところ、次に提案されたのが六甲山上の物件でした。「街で暮らしていたのとあまり違わない感覚で暮らせていますが、小さな発見が日々あります」。

ご主人が物件を見つけてきた

――六甲山に越してこられて9年目だそうですね。

ええ。その前は六甲ケーブルを降りた場所から遠くない灘区鶴甲(つるかぶと)で夫の祖父母が持つ一軒家に住んでいたのですが、その家を手放すことになって。私たちはもともと自然が好きな一家でキャンプもよくしていたんですが、夫は淡路島を転居先の候補に挙げました。ただ私の方の実家が西宮で、両親が年を取ってきたときに様子を見に行くことを考えたらとか、子どもたちがもし島外の学校に行きたいと言った場合とか、いろんな想定をするとややハードルが高いと感じました。

次に六甲山上のこの物件を夫が見つけてきて、絶対に気に入るからと連れて来てもらいました。表六甲ドライブウェイのくねくね道でものすごい車酔いしてしんどかったのですが(笑)、開放的なサンルームに一目惚れし、何よりも犬が思う存分走り回れるなと。やっぱり街だと近所に気を使いながらっていうのはありますよね。犬は吠えるものだし子どもたちは走り回りたいですが、どうしても街の暮らしでは気を使わなくちゃいけない。犬も喜ぶっていいなと思いました。

藤本さんの飼い犬、イングリッシュ・ポインターのサンディー。もうだいぶおばあちゃん。

――4人家族で暮らすのにちょうど良いサイズ感ですね。

これくらいの大きさの物件は六甲山ではあまりないらしいので運が良かったです。築年数的にも比較的新しくて補修もそこまで必要なかったです。このリビングと、あと子ども部屋が2つ。ロフトが広いのでそこを寝室として使っています。暖かい時期はサンルームが気持ち良いので、そこで食事をすることが多いです。 

母屋に大きなサンルームが併設されている。

――ツリーハウスがあると聞きました。

庭木を切るのをきっかけに、ご近所の方がツリーハウスをつくってくださったのです。私や夫はDIYが苦手でペンキ塗りをするくらいなのですが、何でもできてしまうスーパーマンのような方が近所には結構居てくださるので(笑)。小屋ももともとはなかったんですが、やはりその方につくっていただきました。

庭にあった木を使ってつくられたツリーハウス。以前取材させていただいたジョシュ・デサンティスさんの息子さんによるお手製。

――引っ越してきた当初、お子さんたちの反応はいかがでしたか。

引っ越し当時長男は中学校3年生、長女は小学4年生でした。娘は以前は鶴甲の小学校に行っていましたが、六甲山小学校に途中編入しました。1クラス5人で女の子は娘1人でしたが、すごく楽しんでいました。1年生のときから通いたかったと言っていました。

街の小学校では生徒数が多いために学年ごとに時間差で休み時間が設定されているところもあるようですが、六甲山小学校では6年の子が1年の子をおぶって休み時間に走り回ったりしています。学年単位じゃなく縦割りで6年生や5年生がいつも下の子の面倒を見ています。行事があると子ども全員が何かしらの係をすることになるので、自主的に動いている状況は多いです。

母屋のリビング。夏はサンルームで、冬はリビングで食事をする。

アウトドアの思い出は多いです。夏は六甲山上の溜め池にカヌーをみんなで持っていって漕いだり。冬は体育の授業にスキーがあるので、人工スキー場に行ったり。学校でバスをチャーターしてハチ北高原スキー場まで遠征もしていました。どれもとても楽しんでいました。

大きなLDK。奥に子ども部屋がある。

――息子さんはどんな感じでした?

息子はちょうど高校受験前で、中学はそのまま鶴甲の中学校に通いました。高校に受かってからは阪急六甲駅まで歩きで山を降りて通学していたんですよ。阪急六甲駅で革靴に替えて、スニーカーはリュックに入れて学校に行っていたそうです。思春期で体力を発散できるとか、そういうこともあったのかな(笑)

あとはもちろん犬のサンディーも越してきたときから有頂天でした。ずっと走り回って。彼女が一番嬉しかったかもしれません。

庭にはハンモックや焚き火の道具などがある。

街にいたときと生活スタイルは大きく変わりません

――初めての六甲山暮らしで困ったことはなかったですか。

うーん……、あまり自覚がないですが水道が凍った、とかかな。意外と大丈夫というか、ご近所さんが情報共有してくださるし、困ったことがあったら相談して助けていただいています。最初から知り合いだったわけではないのですが、犬を連れて散歩しているときなどご挨拶しているうちに自然とつながりができて、今では親しい方がたくさんいます。六甲山は結構人が住んでいるんですよね。 

暖かい季節はよく週末サンルームで友達も交えて食事をしているそう。

――旦那さんはDIYを結構する方ですか?

自然は好きですが、DIYはほとんどしたことがなかったので、ご近所の方の影響を受けて勉強中です。街に住んでいたときと生活スタイルはそれほど変わってないですね。でもスポーツが好きなので、冬はスノーボードのインストラクターをしたりしています。こんな近場でできるとは思っていなかったので本人も喜んでいます。春から秋の週末は、趣味のアメリカンフットボールで忙しくしています。

山の上に来てからは便利屋的な仕事も始めて、蜂の駆除の依頼も受けています。その他の用事でも手が足りないから助けてほしいと言われたらすぐ飛んで行っています。

キツネに食べられてしまったが、以前はニワトリを多頭飼いしていて毎朝卵を産んでいた。

――ご自身はどんなお仕事をされていますか?

私はもともと幼稚園教諭の仕事をしていて、その後も保育園、児童館、こども病院など、25年くらいずっと子どもに携わる仕事をしていました。こっちに来てからもケーブルに乗って勤め先に通っていましたが、数年前からはご縁があってすぐ近所にある宿泊施設で働かせてもらっています。

子どもたちの進学

――お子さんたちの成長に合わせて、進学はどうされましたか? 

娘は六甲山小学校を出て、その後街の中学校、そして高校に進みました。中学に入学した当初は生徒数の多さにびっくりしていましたが、でも子どものすごいところはすぐ慣れるところです。両方知ることで人数が多い学校のメリットデメリットも、六甲山小学校の良かった点やデメリットだった部分も客観的に見えてきます。少人数の小学校から移る場合、私立がいいだろうかとか事前にはいろいろ気を揉みましたが、最終的には自然の流れにまかせて良かったと思っています。

――娘さんはケーブルで?

ちょうど夫が毎朝出かける時間帯と重なるので、車で送ってもらっています。時間で言うと片道15分くらいです。またそれが親子の時間にもなっています。夫と娘は特に仲が良くて、いつも一緒にいます。ふたりともスノーボードが好きで頻繁に一緒に行っています。

家でくつろぐ娘さんの様子。庭でニワトリが放し飼いにされていた。 写真提供=藤本 愛

六甲山郵便局に「ただいま」

――総じてお子さんたちは楽しく過ごしていらっしゃる。

ふたりともすごく気に入っている様子です。ただ、そう言いつつも移ってきた当初は子どもなりに不安な部分もあったんじゃないかと振り返ります。小学校の行き帰りに他の子がいないとか。でも毎朝、六甲山上交番の方がわざわざうちの娘だけのために出てきて見守ってくれていたり、そういうことが心強かったです。

何より、六甲山郵便局の存在に私たち家族は救われました。ちょっと他の郵便局とは違う雰囲気だと思います。学校から家までの途中に郵便局があるのですが、なんとうちの娘は帰り道、郵便局で宿題してから帰ってきていたんですよ。独特の時間が流れていて、私も行くとコーヒー出してもらったり。「ちょっと温まってから帰りはったら」などと声かけてくださるんです。山の上のみんなの居場所のような郵便局。うちの娘は、学校帰り郵便局に寄るとき「ただいま」って言ってたくらい、もうひとつの居場所でした。

庭に建てられた小屋。遊びに来る子どもたちの友達が寝泊まりに使ったりしている。

自然と友達がやってくる家

――ご自宅にお友達はいらっしゃったりしますか?

第一に主人に友達が多いので暖かい季節は常に週末誰か来ていて一緒にサンルームで食事しているような状況です。 
息子や娘もよく友達を連れてきますね。今は庭にある小屋で子どもの友達たちが泊まれますが、前は庭にテントを張ってそこで寝たりもしていました。

基本的に冬は寒くて凍えるからと断っているんですが、冬に娘の友だちが来て玄関先でバーベキューをしていることもあります。やっぱりそういうのが楽しいんだと思います。

子どもの友達が遊びに来ることもしばしば。 写真提供=藤本 愛

――息子さんのお友達も?

息子は今大学4回生、来年もう社会人ですが、ここに友達が来てコーヒーを淹れて飲んだり語り合ったりしています。街に住んでいる子にとって珍しいというのもあるんでしょうけど、ある意味田舎の代わりというか、こういう場所を求めているのかもしれませんね。

――家の周りで動物にも会いますか?

きれいな鳥がよく来ます。珍しい鳥や動物に出会ったり知らない植物を見つけたりするとすぐ写真に撮って記念碑台の六甲ビジターセンターに聞きに行くのが習慣です。「博士」がいらっしゃいますから。これ食べられますか?とか(笑)

娘も記念碑台でいろんなことを教わっているから、学校の帰りにモミジイチゴを見つけていっぱい抱えて持って帰ってきて、皆で食べたりしました。

近所の家で子どもたちに絵本の読み聞かせを行ったときの様子。 写真提供=藤本 愛

絵本の世界が現実に

――日常に発見がいっぱいありますね。

そうなんです。こちらに来てみて気づくのですが、街に住んでいたときは結構いっぱいいっぱいで余裕がなかったのかもしれません。今は本当にやりたいことがいっぱいあるし、焦ることもなく今を楽しもうという気持ちに満ちています。
たとえば、ケーキができたからとお友達が呼んでくださって、出かける道中でも毎回発見がある。キジの足跡があって、ここキジが通ったんやとか。

もうすぐ六甲山生活は10年になるが、日々の発見は尽きない。

今でも機会があると、子どもたちに絵本の読み聞かせなどするんですが、絵本の物語とあわせて、うちのニワトリがキツネに食べられたエピソードなどを子どもたちに話すと皆とても興味津々に聞くんです。何というか、本当にここは絵本の世界みたいです。
今まで私が幼稚園や保育園で絵本を通して子どもたちに話してきたお話が現実になっているようなそんな日常です。

リビングの窓からはリスやうさぎが来ているのをよく見かけます。小屋の前の木にリスが来るからその前にわざと松ぼっくりを撒いておく。そして途中まで食べかけて止めた松ぼっくりを見つけては、リスにとっても硬かったんかなとか、家族でそんなたわいもないことをしゃべったりします。
リスの気持ちになったお話を子どもたちにしたら、それだけでも絵本みたいでしょう。だから9年経った今も毎日ワクワクしています。

六甲山郵便局近くから街を眺める。

(コラム執筆・写真=安田洋平)