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「成長とは何か」その再定義について考える 〜NL/ROKKO 2023オープニング企画レポート〜

六甲山上のROKKONOMADでは、オランダの思想にヒントを得ながらこれからの社会のあり方や働き方について考えるプログラム「NL/ROKKO」を今年も開催します。オープニング企画として、さる9/2に、『サーキュラーエコノミー実践:オランダに探るビジネスモデル』の著者である安居昭博さんと、“旅する料理人”三上奈緒さんをお招きし、「成長って何?」というテーマでトークセッションを開催しました。

六甲ミーツ・アートの一環としてROKKONOMADに展示されている作品「成長って何?」。

NL/ROKKO2023 トークセッション「成長って何?」

――司会の小泉です。2023年にオランダの歴史学者ルトガー・ブレグマンにインタビューした際、「成長の定義はもはや変容していると思う」と仰ったのがとても印象的で、ですからお二人にも『成長って何?』という質問をぶつけてみたいと思います。

“旅する料理人” 三上奈緒さんの考える「成長」

ROKKONOMADを管理する有限会社Lusie代表の小泉寛明と、“旅する料理人”三上奈緒さん。

「私は、旅する料理人という肩書きで、日本のさまざまな地域を旅しながら『顔の見える食卓づくり』の活動をしています。

石を組んで焚き火のセッティングをして料理をすることが多いのですが、長野の井戸尻考古館に行ったときに石が組んであって『縄文時代のかまどです』と説明されました。自分と同じだと思って驚き、以来、縄文人にどっぷりはまっています(笑)

縄文人は劣っていると思いますか?

どんどんハイテクになって、今生きている自分たちが最先端な気がしているかもしれません。けれども例えばワークショップをしているときに、火をきちんと扱えない方が多い。現代人は火を見ることが減っている。

『人間は、火を使うことによって動物から人間へと進化した』と言うけれど、火すら使えなくなってしまった私たちは果たして進化している、成長していると言えるのでしょうか?
そんなことを思いながら火をおこしたり、囲んだりするワークショップをしています」

サーキュラー・エコノミー研究家・安居昭博さんの考える「成長」

「安居昭博と申します。ドイツに4年間、オランダには2年間住み、そしてオランダで就労した後日本に戻り、現在は京都を拠点に活動しています。
ドイツに留学していたときにサーキュラーエコノミーの存在を知り、惹きつけられました」

『サーキュラーエコノミー実践:オランダに探るビジネスモデル』著者の安居昭博さん。

「成長についてどう考えるか。今はこれまでと違ったかたちで捉え直さないといけないと一人一人が感じていると思うのですが、戦後、世界各国で成長と言われたら以前あったものを取り壊して新しくてきらびやかなものを建てるイメージだったでしょう。

けれど1988年以降、特に2010年代に入ってからは、世界を経済的にリードしてきた、いわゆる先進国と言われる国々において、短期的な経済成長を表す指標のGDPがのきなみ1%、2%という数字になってしまいました。経済的に力のある国々もこれまで通りやっていても上手くいかない、根本的に成長の定義を見直さなければという機運になってきたのだと思います。」

「これからの成長を考えるうえで明らかに以前と違ってきている点としては、今までは短期的な経済合理性という単一価値観が大きかったが、それとは対照的に、複合的・多義的な価値観になっているところは見逃せないと思っています。

なぜドイツでサーキュラーエコノミーに惹きつけられたか、そのきっかけを話します。大学生時代、ホテルのビュッフェでアルバイトに就きました。食が好きという思いからでしたが、その思いとは裏腹に、フードロスの現実を目の当たりにします。
シェフが先ほどまで作っていた料理がどんどん捨てられて、朝だけで75リットルのゴミ袋が10袋ほど出ました。それらをできるだけ早く捨てるのが僕の仕事でした。

一方で、フードバンクの活動をしているNPOに所属していたのですが、そのNPOの補助金は打ち切られ、活動自体がなくなってしまいました。

社会や環境にとって良い取り組みをビジネスモデル化して持続可能にするにはどうすればいいか、10年くらい模索していました。

そんな中で出会ったものがサーキュラーエコノミーだったのです。
短期的に儲けられるわけではないけれど、持続可能な経済合理性を持ちながら、社会や環境への取り組みを行える点にサーキュラーエコノミーの特徴があると思っています。」

オランダ発、自分で修理できるスマートフォン「Fairphone」を見せる安居さん。

「『ドーナツ経済学』というイギリスで誕生した新しい経済のモデルを、アムステルダム市が採用しています。

かつては経済成長とは永続的に右肩上がりしていくことが目指されたわけですが、それが先進国で頭打ちになっている。でもドーナツ経済学が目指しているのは、ある一定のところまでは右肩上がりの成長を必要とするが、それ以上は維持を目指すという考え方です。

たとえば魚釣りになぞらえて考えてみましょう。右肩上がりの経済成長的な発想だと今年10匹釣れたら、次の年にはさらに20匹、50匹…と、増やすことを考えます。

ドーナツ経済学では違います。1匹だけでは家族を養えないので、魚を10匹釣ることは必要であるしそこで幸福度が上がる。しかし50、100匹釣れても余してしまう。ならば、同じ10匹でも子どもに釣り方を教えて釣るとか、手作りした釣り竿で釣るとか。数だけで捉えていたときには見えていなかった、異なる指標で捉えたときに見えてくるものを追求しつつ幸福度をあげていくという発想です。

かつての経済成長の考え方からすると『成長していない』と見えるかもしれません。でも、違う指標で見たときに『豊かになっている』という考え方はありうるのではないでしょうか。」

――サーキュラーエコノミーとリサイクルの違いは何でしょうか。

「サーキュラーエコノミーは企業がビジネスモデルをつくる際、あるいは行政が政策を進める際に、初めから廃棄が出ない仕組み・デザインを行うのが特徴です。

たとえば、オランダに『MUD JEANS』というジーンズがあります。顧客は購入するのではなく、月額制で契約してレンタルします。

どんなに履きつぶしても『レンタル』ですから、必ず最後は企業に返却することになります。MUD JEANSは回収したジーンズを繊維に戻し再び製品にして、ユーザーに供給する。そのようなビジネスモデルです。

リサイクルは、製品がつくられる段階では大量生産・大量消費型のままです。短期で破棄されることが前提となっているモノに対し、どういう延命措置が可能か、後から対処しようとする発想。医療の観点で言うと対処療法です。

対して、予防医療のように、最初から廃棄が出ない仕組みづくりを実践していくのがサーキュラーエコノミー。そこが大きな違いかと思います。」

――日本でサーキュラーエコノミーは馴染むと思いますか?

「京都にMITTANという服のブランドがあります。染料や素材にこだわっているところもすごいのですが、それ以上に何が注目かと言うと、どんなに着倒してもブランドに返却すると売価の20%で現金買い取りしてもらえるんです。
修理と染め直しのチームを自社に設けていて、回収した衣類も染め直され繕い直され、美しい修理を施されて再販されます。

このように、日本でもサーキュラーエコノミーの観点ですでに実践されている優れた活動は少なくありません。」

「ちなみに大量生産大量消費する経済からサーキュラーエコノミー型の経済にシフトすると、雇用が減るんじゃないかと心配する声がありますが、そんなことはないと思います。

服を例に取ると、大量消費型社会において僕たちは使った服を捨てていた。しかし、回収して新たに修理、再出荷を行うサーキュラーエコノミーのモデルに変えると、文字通り循環し、今までとは逆方向の流れが生まれることになる。そうなると、これまでになかった流通の仕事や、修理やメンテナンスの職が発生する。結果、今までなかった雇用が生まれ、経済的にも活性化するはずです。」

兵庫県下の猟師が獲った鹿肉。

あなたの考える「成長」とはどんなものですか?

トークセッション「これからの成長とは?」が終わった頃には既に日が暮れていました。三上奈緒さんが手掛けたディナープレートが振る舞われました。神戸産の野菜の上に、兵庫の猟師が仕留めた鹿の腿のローストが乗ったワンプレート。六甲山に生えている三つ葉や犬山椒などがごはんに混ぜ込んであったりと、土地の食材がふんだんに使われていました。 

最後に。六甲ミーツ・アートの一環として行われているROKKONOMADの展示もまた「成長」に関連しています。「あなたの考える『成長』とは何ですか?」という問いに対するいろんな人の多様な言葉がROKKONOMADの庭の中にちりばめられており、いわば成長について考える言葉の森となっています。鑑賞すると同時に、あなたの考える「これからの成長」に対するコメントもぜひ書き込んでみてください!(会場に設置されたポストイットで、誰でも投稿ができるようになっています。)

調理を終えて、リラックスしている様子の三上奈緒さん。

三上奈緒ウェブサイト
安居昭博ウェブサイト
MUD JEANS
MITTAN

(テキスト・写真=安田洋平)