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NL/ROKKO 第4回 「私たちの働き方は今後どうあるべき?+現代人にとってのコモンズとは?」レクチャー及びワークショップ
六甲山上を舞台に、オランダの社会と思想にヒントを得ながら、 みなさんとともにこれからの「働く」について考えるシリーズ企画「NL/ROKKO」。2022年9月からスタートしたこの企画は、12月に行われた第4回が一区切りとなりました。最終回は「今後の私たちの働き方とはどうあるべき?」「現代人にとってのコモンズとは何か?」2つのトピックについて話し合いました。
成長の難しい時代にどうするか
イギリスの産業革命以前は、おそらく皆自然のものと共に生きていました。
産業革命が始まり農村にいた人々は都会に働きに出て、工場勤務するようになりました。20世紀に入ってからは、自動車会社フォードの創業者ヘンリー・フォードが最初に週休2日制を導入しました。
また時代が進むにつれ、農業→工業→サービス業→情報産業のように、中心的な産業は移り変わっていきました。
経済成長率で見ると1950〜70年代は10%近くの成長だったのが、70年代後半〜90年頃までの期間で平均成長率5%台に、90年代〜2000年代にかけては0.7%へ。そして現在はと言えばマイナス成長の時代に入っています。もはやかつてのような経済成長は難しい世の中になってきています。
他方、地球上の人口はどんどん増え、2020-2050年の間に食糧難や環境問題がより深刻味を帯びていきます。つまり仕事を考える上でも環境問題との関わりがより無視できなくなっているということです。
こうした状況の中「ドーナツ経済」という提案を行ったのが、イギリス人の経済学者ケイト・ラワースさんです。闇雲な経済成長をゴールとするのでなく、ドーナツの中、すなわち限られた資源の範囲内で機能する経済を目標とすべきではないかと提唱しています。
ポスト資本主義=コモンズ!?
そして、コモンズについての議論が世界中で多くなってきています。
コモンズとは何かという話ですが、下の図を見てください。水面の上側に描かれているのが、これまでの経済のメインストリームとして認識されてきた資本主義経済の活動。しかし、ここで注目したいのは、水面下に描かれている、意識しにくいが実は価値があると考えられる活動の群です。交換やギフト、DIY、協同組合、ファーマーズマーケットなど。今後において活動の類いが社会の中で大きな位置を占めていくのではないかと考えられます。
なおコモンズ研究の第一人者であるデヴィッド・ボリエの見解によれば、コモンズとは以下のように語られています。
- ・公正かつ協力的な方法で集合体である富を管理するために設計された共有の意思システム
- ・それぞれにとって重要で必要なことを満たしながら、目的、意味、所属の感覚を創造できるようになる自律的なシステム
- ・市場や国家への依存を最小限に抑えながら集団的資源を管理することができる社会的なグループ
- ・経済や生活の中で軽視されがちであるが市場や価格では簡単に捉えることのできない、価値を生み出しているもの
では、どんなコモンズがあるのか見ていきます。
① 物理的コモンズ
農業コモンズ/ゴミのコモンズ/ソーラーコモンズ/土地のコモンズ など
農業は、協力が前提の仕事でありもともとコモンズ的なものです。
ゴミのコモンズというのは例えば地域の中でゴミ回収や堆肥化などをどうデザインしていくか。ソーラーコモンズというのは太陽光発電によって地域で電力生産・消費ができるようにしようというものです。
土地のコモンズとは何か。古来、日本においては神社や寺が所有する土地が人々に借地として提供されましたが、この仕組みのおかげで地域の環境が一定に保たれていたと言えるかもしれません。
コモンズは新しいものを指すとは限らず、かつて私たちの社会が持っていたシステムを見直すということでもあります。
② デジタル型コモンズ
オープンソース/コスモローカルプロダクション/シェアリングエコノミー/Web3、DAO
オープンソースとは、LinuxなどのOSや、Wikipediaなどがそうですね。コスモローカルプロダクションとは、いろんなプロダクトの設計図や作り方をサイトで公開して共有する活動です。たとえば住宅を自分たちの手で建設できるためのデザインをネットで公開している「ウィキハウス」などがあります。
Web3やDAOについて、よく耳にしますがなかなか理解が難しいですよね。まずWeb2について話した方がわかりやすいかもしれません。Web2とはつまりGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるプラットフォーマー(プラットフォームを提供する事業者のこと)にコントロールされているデジタル社会のことを指します。つまり、Web3やDAO(Decentralized Autonomous Organizationの略。分散型自律組織)では、支配する者がいなくて自律的に保たれるインターネットの世界像が目指されていると言えます。
③ メディア型コモンズ
コレスポンデント/VPRO
「コレスポンデント(De Correspondent)」とは、2013年にオランダから始まった、年間で8000円相当を支払って読む記事メディアです。「NEWSは要らない。それよりも、社会で起きている事象を分析して書くことが重要だ」という考え方で、そのメディア活動に対して視聴者がお金を出し合う形で運営されています。
「VPRO」はオランダ公共放送のひとつですが、かなり前衛的な番組をつくることで知られています。たとえば「バックライト」という番組がありますが、これも単なるニュース報道ではなく、深いところまで入り込んで分析的に社会の動向を伝えているのが特徴です。
参加者同士、議論してみましょう
改めて、どんなものがコモンズか、考えてみましょう。
昔から身の回りにあるものもコモンズかもしれません。また、コモンズを社会の中で成り立たせていくためにはどうしたら良いのかということも論点にしてください。
先程の氷山のイラストで水面下に描かれていたような活動は、従来、完全ボランティアで行われていたり、経済的には負担の大きい形で行われるケースが少なくありませんでした。もっと普通にコモンズ的な活動が成り立つには今後どうしたらいいのでしょう。
昔のように経済成長する時代ではなくなった今、コモンズを皆で運営していかなくてはいけない場面は増えていくと思います。
同時に、会社での働き方も変わっていくべきでしょう。従来的なヒエラルキー的な構造でなく、ホラクラシー的組織のように、自律的なグループに決定権が分散されつつ運営していく会社の形態も少しずつ増えてきています。ある意味会社もコモンズ化しつつあると言えるのではないでしょうか。
「ビュートゾルフ」という介護の会社がオランダにあります。1万人以上のスタッフと3000以上の事業所を持つ大企業ですが、ユニークなのは事業所ひとつひとつは10人程度で組織され、介護計画からスタッフ教育、営業成績管理から経理や契約作業に至るまで、基本的に現場の事業所単位で完結するようにできています。その上で現場の知見は会社全体で共有されますし、必要なサポートがあれば本社から施されます。フラットで自律分散型な組織の好モデルと言えるでしょう。
ワークショップタイム チームに分かれて議論
というわけで、今回は2つの点について議論してもらえたらと思います。
1つ目は「どんなコモンズ活動が神戸で広がるべき?」。
身の回りでコモンズ的なものとしてはどんなものがあるか。また、神戸でコモンズがもっと広がるためにはどういうものがあったらいいと思うかについて話し合ってみてください。
たとえば、アメリカではNPOに対する寄付が非常に活発に行われますが、日本でコモンズ的な活動が金銭的に支える上で、ふるさと納税の仕組みがもっと活用しうるのではないか、とか。あくまで一例ですが、皆さんの気付きやアイデアをぜひ聞かせてください。
2つ目は、「働き方はこれからどう変わるべき?」です。
NL/ROKKOはもともとこれからの働き方について考えるという点をテーマの主軸と考えてきました。そして、4か月にわたって、今後どういう働き方を志向すべきなのかについてさまざまなインプットを行ってきました。
集まって働くべきなのか。分散して働く方がいいのか。同じ時間に働くべきなのか。ヒエラルキー型組織がいいのか。それとも、ホラクラシー型? などなど。
参加者の皆さんを4〜5人ずつのチームに分けますから、話し合ってみてください。
各チームの発表タイム
ディスカッションの後に行われた発表の内容から抜粋をお届けします。
【チーム1】
働き方に関して言えば、現在では市役所の職場においてもリモートワークが取り入れられるなど、以前より柔軟な働き方が浸透してきているようです。ただし、これはチーム全員で話したことですが、例えば若手、特に新卒の人たちなどは社会人としての基本的なマナーを学ぶといった必要もあるし、最初からリモートワークばかりなのも適当ではない気がするという意見が多かったです。
また、JAZZ のアドリブのように、個の即興性が強い集団であればリモートワークは合っていて、かたやオーケストラのように、みんなで同じ方を向いて緻密につくっていかなくてはいけない業務の場合には一緒の空間に居て仕事をした方が向いている。つまり働き方の答えはひとつではなくて、時と場合に応じてメリハリをつけて使い分けていくことが大事なのではという結論になりました。
【チーム2】
身の回りにあって実はコモンズではないかというものについて、皆の意見を出し合いました。私は夫がオランダ人なのですが、オランダの大学生は、通学時の鉄道はすべて無料になるパスがもらえるんですね。また、実家暮らしでない大学生には家賃補助も出ます。これから社会に出ていく若い層は大事だから支えていこうという、こういう制度はとても良いと思っています。神戸市では、小学生・中学生が地域の美術館や博物館で見せると入場がただになる「のびのびパスポート」という仕組みが以前からありますが、これも少し共通するものがあるかもしれません。意識していないけど、こういうものもコモンズと言えるのでは。
また、昔はどの街にも「駄菓子屋」がありましたが、思えばこれもコモンズだったかもしれません。計算したり交渉したり、人と関われたり、駄菓子屋は子どもたちにとってそういう社会的な経験がさせてもらえる場所だったのではなかったかと。その価値を見直す気持ちが今回生じました。
【チーム3】
働き方についてはハイブリッド、すなわちリモートもオフィスワークも選べる職場がいいんじゃないかというのが皆の共通意見になりました。今日は学生さんの参加者もおられましたが、聞いてみたところ、会社に入ったらまずは集まって働きたいという人が多かったです。分散型では寂しいしオフィスでおしゃべりする中でわかるようになることも多いからと。でも一方で、コロナ禍の中、育児や介護がありながら仕事が続けられたのはリモートワークが可能だったおかげだ、と仰る方も参加者の中にはいらっしゃいました。
2つ目に、どういうコモンズが神戸で広がると良いかについてですが、地域の公園の機能をコモンズの観点から再考してその価値を最大化することが大事なんじゃないかと話しました。広くて無料で、いろんなことができることが公園の基本性格だとして、たとえば、公園の中で不要なものを交換できるスペースなどがあってもいいんじゃないかとか。
また別の意見として、捨てられているものを、たとえば今避難している人たちだとか、そういうところに届ける仕組みもコモンズとして社会に実装されると良いという人もいました。誰かにとって必要ないものを、必要とする人のもとに届けて、循環していく仕組みがあると良い。
こうしたコモンズ活動にはスタッフが要ると思うが、アメリカで行っているように、学生のボランティア活動を義務化するなどして賄ってはどうでしょうか。あるいは定年退職した高齢者にそうしたボランティア活動を推奨しても良いかも。ボランティアをした分ポイントがもらえて、そのポイントは神戸市の中で使える。そんなシステムにしたら良いのではないでしょうか?
NL/ROKKOの成果を今後に活かしたい
こうして、この日のレクチャー&ワークショップは有意義な集いとなりました。参加者は総勢20名近くで、19歳の大学生から、多拠点で仕事をしている起業家、会社に所属しつつもオンライン会議をしながら自宅でエンジニアの仕事をしているのが日常だというリモートワーカー、行政職員に至るまで、多彩な顔ぶれでした。
オランダの思想や実践から学びながら、これからの働き方について六甲山の上から考える「NL/ROKKO」のシリーズ、4か月にわたって行われましたが、いったんこれで終了です。振り返るとNL/ROKKO自体がひとつのコモンズであったのではという気がしますし、今回の学びをできるだけ多くの方と共有し、次につなげていければと思っております。ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました!!