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NL/ROKKO 第3回「神戸におけるサーキュラー・エコノミーを考える」レクチャー&ワークショップ
山を歩こう、そして未来の働き方について考えよう。オランダの事例を範にとりながらこれからの私たちの仕事/働き方を探るプログラム「NL/ROKKO」。2022年9月から月一回開催してきましたが、いよいよ第3回になりました。
11月のテーマは「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)と、それによって生み出されるローカルの仕事」です。今回も午前中は山歩き。ランチを皆で一緒に食べ、午後からレクチャー、そしてワークショップという流れでプログラムが実施されました。
これまでもNL/ROKKOで紹介してきましたが、オランダ・アムステルダム市は2020年にサーキュラーエコノミーへの積極移行を政策として打ち出しました。2050年までに100%のサーキュラー・エコノミーを実現するとうたっています。
アムステルダム市が発表しているリリース「Amsterdam Circular 2020-2025 Strategy(アムステルダム市による2020年から2025年までの循環型経済へ向けた戦略)」によれば、サーキュラー・エコノミーを推進する上でまず重点的に取り組むとしているテーマは、「食品及び有機性廃棄物の処理」「消費財」「建築」の3つだということです。
海外におけるサーキュラー・エコノミー実践の事例
日本でサーキュラー・エコノミーを推進するとした場合にこの3つの領域に関連して、どのような取り組みが可能か、今回は参加者同士で話し合ってアイデアを出し合うことにしました。まずは、アイデアを思いつくヒントにしもらえればとレクチャーを行いました。
① 食品及び有機性廃棄物の処理
「サーキュラー・エコノミーの基本概念を表した『バタフライ・ダイアグラム』という図があるのですが、これによると生物学的循環を施せるもの(図1の左側)と、技術的循環を施せるもの(図1の右側)に分けられると言います。食品・農産物・木材などの自然素材は最終的に土に戻るところまで循環させよう(生物学的循環)ということが示唆されており、それ以外の製品は修理・再利用したり、分解して再生させたり、できるだけ商品を長寿命化させたりすることが大事(技術的循環)と書かれています」
「ということでまず生物学的循環のことについて言及したいと思います。食品ゴミについてです。参考にアメリカのポートランドの場合を紹介しようと思います。日本では可燃ごみの回収が週2回来て最終的にごみは焼却に回されますね。
でもポートランドの場合、キッチンにはバケツが乗っていて野菜くずはそこに入れられます。バケツの中身は専用のコンテナに移し、それを回収車のところへ持っていきます。回収された食品ゴミは焼却処分されるんじゃなくて、堆肥にするための場所に移されて土になります。回収は週3回来てくれますが、プラスチックなど入っていたら駄目、出していいのは食品残滓だけです。それ以外の回収は2週に1度だけです。
日本でも個人レベルでコンポストを行っている人はいますが、社会全体として仕組み化されなければなかなか実効性は低い。食品のゴミを堆肥化することは重要なポイントだと思います。果たしてどうすれば私たちの社会でも導入できるでしょう?」
② 消費財
「日本でも家具や洋服など中古品を購入する習慣が増えてきましたが、アムステルダム市は2030年までに、100%の循環型購買を実現しようとしています。
商品を大量生産して用が済んだら捨てるという一方通行的な経済ではなく、予めリサイクルできる・しやすいことを前提にして商品設計をするのがオランダなどで実践されつつあります。
効率的な生産体制によって製品は安価になりましたが分解や修理は縁遠くなり、一つの部品が故障するだけでも廃棄されてしまうことが一般的になりました。買い替えた方が安い、修理した方が高いという認識から新品を選ぶ傾向は強いでしょう。
ただ、オランダではフェアフォン(Fairphone)のような、全部分解でき、DIYで組み替えられる携帯電話も販売され出しています。あるいは、ドイツの家電メーカー、ボッシュ(Bosch)では冷蔵庫も洗濯機もリースで貸し出して、最終的に動かなくなったらまた次の、よりエネルギー効率が改善された商品にアップデートして交換する、そういう販売スタイルを定着させつつあります。
オランダのジーンズメーカー、マッドジーンズ(MUD jeans)はサブスクリプションでジーンズを販売する方式を確立させています。ユーザーはジーンズを着古したらメーカーに戻すか自分で引き取るかを選べ、返却を選んだ場合、メーカーは返却されてきた商品を分解しもう一回その材料からジーンズをつくり商品化します」
③ 建築
「サステナブルな建築として近年、木造建築が見直されています。木造で中層建築物をつくる技術は一般化し始めており、アムステルダム市では木造建築の比率を高めていこうとしています。
あるいは、地域の木材でつくっていく取り組みも活発化しています。
オランダではデジタルパスポートという仕組みが進んでいて、新しくつくる建造物にどんな建材が使われているかデータで残すようにしています。将来その建物の寿命が来て取り壊すことになっても、その建材データを見ながら、家具なりウッドチップなり別用途にリサイクルして寿命を伸ばす工夫をしています」
サーキュラー・エコノミーと地域に仕事を生むことの関係
そもそもNL/ROKKOはこれからの社会の働き方についてディスカッションしていくことを目的としているイベントなわけですが、「仕事を創る」という点でサーキュラー・エコノミーはどう結びついてくるでしょう。
アムステルダム市においてサーキュラー・エコノミーの先導者的役割を果たしている民間団体「サークル・エコノミー」が発行しているレポート「サーキュラー・ジョブ・ブルテン」によれば、こうした構造転換が進むと結果的にローカル経済が活性化し、近隣に仕事が生まれるとのことです。
サーキュラー・エコノミーを社会に実装していくためには「商品を再生可能なものにしていく」「製品寿命を長くする(修理作業など)」「廃棄されたものを蘇らせる」といったアクションが不可欠ですが、たとえば修理というのは生活圏で頼めることが快適なはずです。昔、自転車も包丁も近所の業者のもとに持って手入れしてもらっていたように。
ただ、そうした“サーキュラー・ジョブ”が今後定着していくためには、消費者が新品のプロダクトを購買するときには課税され中古品を購入するときには無税になるとか、古いものをリペアする仕事の報酬は所得税が免除されるなどといった特別措置が適用されることが大事になるかもしれません。事実、オランダ政府はそういった政策に真剣に取り組んでいます。
ワークショップ参加者たちの声
では、皆さんはどう思いますか?
日本の場合どんな現状があって、それらをサーキュラー・エコノミーに変えていくにはどうしたら良いでしょう。あるいは、サーキュラー・エコノミーとの関連の中でどんな仕事が新たに創り出せると思いますか?
テーブルごとでチームに分かれて40分ほど話し合い、その後発表をしてもらいました。
「ゴミ処理の問題については家庭のレベルで変えていくのは限界がある。行政も含め周りを積極的に巻き込んでいかないといけない。今の学生たちは学生時代に社会に役立つ活動をどれだけ行ってきたか、いわゆる“学チカ(学生のときに力を入れたこと)”について就活でも聞かれる時代だ。そういうところから若い人を積極的に巻き込んではどうか」
「レジ袋有料化の政策に見るように、損得が関係すると皆従うと思うから、地球に賢い選択をしたら得をするようにして、反する選択をするとペナルティになるといったことをルール化したら良いのではないでしょうか」
「昔の製品は本体の部分交換が可能なモノって少なからずあった。今はまだ使える部分があっても一部のパーツが寿命だと『買い替えてください』が当たり前になってしまっている。セレブによるPRなども絡めながら『新しいもの=かっこいい』というイメージから脱する声掛けをもっとすべきでは。また家電なども今は量販店が安く大量に売って儲けるスタイルだが昔は地域の特約店が販売を行い、同時にメンテナンスや修理も行っていた。そういうしたもともとあった構造を見直して復活させることが大事なのでは?」
最後に、今回のイベントのメンターを務めた小泉寛明による、まとめのコメントです。
「現在の地球環境を考えればサーキュラー・エコノミーの導入は必至ですし、今後社会がその方向で舵を切られていくことは間違いないでしょう。再生可能エネルギー、土を良くすること、リペア事業、リユースを組み込んだリースなどに関わるビジネスはこれからより大きな市場になっていくでしょう。また昔の日本でもそうであったように、これらのビジネス領域をローカルやネイバーフッドの仕事や働き方として創造的に結びつける人が鍵を握るのではないかと思っています」
(テキスト=安田洋平)