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【体験者の声】「旅先に余裕を持って滞在して地域や都市を深く体験できる」江柏燕さん
ROKKONOMAD(ロコノマド)では、2〜4週間滞在しながら制作や仕事に専念していただくための「ワーク・イン・レジデンス」プログラムを用意しています。
今回は、ROKKONOMADがまだ正式オープンする前に行った試験的なワーク・イン・レジデンス(2020年秋)に参加してくださった、東京在住の江柏燕さんから届いたレポートを紹介します!
文=江柏燕
※文中の写真は、江さんがROKKONOMAD滞在中に撮影したものです
おしゃれで異国文化が溢れるだけではなく、神戸の面白さがたくさん
「私、神戸大好きです!」。台湾の友達に言ったら、必ず「神戸というのは、天母(テンム)のような都市のことですね!」と返してくれます。天母は台北市に位置し、高級住宅街がたくさんあり、異国文化があふれる街です。神戸を訪ねたことはわずか2回でしたが、そのイメージだけでは神戸の面白さを伝えきれないと私は思います。
今回は移動時間を含まず、4日間神戸で過ごしました。最初の2日間は主に北野と灘エリアであり、3日目以降は六甲山と有馬エリアで滞在しました。
歴史と共存して再生していく
神戸で散歩すると、さまざまな時代の建物をよく見かけて、歴史の軌跡を見ることができます。しかし、時が経つにつれ、本来の用途を継続できなくなっていく建物も多く、それらの建物を現在のニーズに応えられるようにし、さらにそこに民間事業者の創造性やたくましさをいかに集約させられるかが重要な課題となっています。
かつて生糸検査所だった建物は1920年代に開業し、1980年代に閉じた後、「デザイン・クリエイティブセンター神戸KIITO」として生まれ変わり、現在ではさまざまなワークショップや展示会が開催されて、市民が互いにコミュニケーションできる場になりました。古い時代の建物が他の用途に転用された事例の一つです。
また、神戸から阪急電鉄の線路に沿って東へ移動すると、いくつかの興味深い空間再生・活性化の事例も見られます。阪急電鉄の三宮駅から王子公園駅までの高架橋の下、梁と柱の間はもともと倉庫や駐車場でしたが、民間のマッチメイキングを通じて、2015年頃から、革製品や家具製造などに従事するデザインスタジオがスペースを借り始めました。
そして、王子公園駅から「水道筋商店街」「灘中央市場」までは徒歩約5分。商店街には生鮮食品や日用品を売る店がたくさんあり、もう少し奥には灘中央市場があります。市場は商店街の高い廊下に比べ、天井が低いので少し寂しい雰囲気がします。しかし店先の間を行き来していると、突然いくつかの空き地が現れ、コタツが置かれ、菜園もありました。 「灘中央市場 みんなの広場」というグループが、空き家となったお店を取り壊し、そこに生まれた空間を市民に開放していました。
海も山にも近く、ちょうどいいスケール
東京はメガシティだとして、神戸のスケールはそれよりは小さく、より住みやすいと感じています。山と海に囲まれた環境は、いつでも自然に親しむことができます。さらに、農業、漁業、畜産も神戸のさまざまな地域に分布しています。そのため、神戸市行政と連動しながら民間の非営利団体が運営する、地産地消をコンセプトにしたファーマーズマーケット「EAT LOCAL KOBE」では、神戸市内各エリアからの農家さんが集まり、地元の農産物や加工品などを販売しています。消費者は、生産地から直接配達される生鮮食品を購入できるだけでなく、市民が農家と直接コミュニケーションすることもできます。
今回の滞在期間、土曜日の朝を空けて「EAT LOCAL KOBE」でボランティアとして手伝っていました。フリーな時間帯に農家さんと話す機会を得ました。 1人は前職は違う職業でしたが農業に転向した50代の女性。 もう1人は、妻の家族がサツマイモを育てており、本業は他に持っているが副業として家族の事業をサポートしている兼業農家でした。サツマイモの加工商品開発を通じて、ブランドを作って価値を生み出しています。私は少し前から農業に関わるプロジェクトも会社で担当していますが、それまでは農家のことに対してほぼ知らなかったので良い参考になりました。短い会話でしたが、ライフスタイルの多様性も感じることができました。
神戸だからこそ、山でワーケーションする新しい仕組み
六甲山エリアに位置する「ROKKONOMAD」はかつては企業の保養所だったが、これからはコーワーキングスペースとして使われます。バブル期までに六甲山に保養所はたくさん建てられましたが、景気後退によって廃屋になった施設は少なくないようです。
ROKKONOMADに滞在する前は、「ワーケーション」のような働き方・暮らし方が実現できることは思えなかったです。会社員として雇われている立場からすると、今までは「仕事」と「休暇」は全く異なった概念であると思っていましたし、仕事とバケーションを交ぜるのは贅沢すぎます。つまり、生活のバランスはどうやって取るかと言えば、平日は仕事に集中し、休日はなるべく仕事と自分を切り離してリセットするものと思っていました。しかしROKKONOMADのような場所に滞在してみると、今の社会状況に向き合い、働く形態に対して、企業側も柔軟に対応できる時代になった気がしました。
ROKKONOMADは山上に位置しますが、交通機関の利用と軽いハイキング程度で簡単に神戸市内から到達できます。私は山登りとハイキングが趣味だから、迷いなくケーブルカーに乗らず1時間弱のハイキングコースで行くことにしました(六甲ケーブル下駅から)。大阪湾を背にしてゆっくり登り、休憩のときは常に大阪湾の見える場所を探しました。海面が穏やかでキラキラし、とても癒されました。人気があるコースだろうと思ったのですが、午後の時間帯で人が少なかったため、人とすれ違った瞬間、お互いの挨拶によって静かな山に人の温かさが注がれたと感じました。
ROKKONOMADに滞在した2日間、観光・ハイキングと仕事は約半分半分でした。1日、仕事を始める前に、軽く散歩して近所に自分だけの秘密基地を見つけました。自分しかいない秘密基地で好きな曲を聴きながら深呼吸をし、冷たくて美味しい空気で頭がスッキリしました。東京や台北で働くとき、出勤前にいつも電車に乗る全員がクタクタに見える風景とは大違いの、新鮮な体験でした。
もう1日は朝早くにハイキングをして、「六甲有馬ロープウェー」を乗りに行って、有馬方面に行ってきました。当日の午後にオンラインミーティングがあったので、有馬で温泉に入ってのんびりすることまではできませんでしたが、このような滞在のスタイルが可能であるなら、また有馬を訪ねることも簡単にできるかと思いました。これまでは、日本が広いと感じ、毎回旅行するたびに「これが最初で最後かもしれない」という悲しみによく襲われていましたが、今回の滞在のおかげで、「行ってみたいところにはそのときに全て行かないと」という焦りもなくなりました(次がある、と思えるようになった)。
「ワーケーション」という形態が実現可能になったということは、働いている我々は制限から解放されたのか、別のサイクルに入ったのか、まだよくわからないです。ただ、仕事と休みのリズムを変えることができるようになり、今まで固く守ってきた考え方や価値観は柔らかくできたと感じました。また、これは比較的長く「旅先」に滞在できる仕組みであり、余裕を持って地域や都市を深く体験することもできると思います。
今回の滞在時は工事がまだ完了されていなかったため(※オープン前 2020年秋)、仕事の時間は1人しかいなく、正直とても寂しかったです。ROKKONOMADが正式にオープンして、公募が始まり、様々な人が入居でき、交流も盛んになる日の光景をつい想像してしまいました。
コミュニティの力を通して、現代の都市問題のソリューションに?
ROKKONOMADが盛り上がってコミュニティ空間になっていくことを期待しているのは、今回を含め神戸を2回訪れた中で、神戸という都市はいつも創造性を与えてくれるという印象を私が持ったからです。これは行政・民間どちらか一方的な力だけではなく、その連携によるものです。
2018年に来日した私ですが、それ以前に台北の古い団地の空いている空間を活用して、仕事のパートナーたちと一緒にコミュニティスペースを運営したり、まちづくりのプロジェクトを企画して実行した経験を思い出しました。当時、チームは豊富な経験を持っていませんでしたが、台北市から多くの提案や支援を受けることができました。当時から感じていたのは、様々なコミュニティと対話をしながら、問題を見つけソリューションを構築して実行することで、都市がいきいきと変化して、それが未来に向けての基礎となるという手応えでした。しかし、問題に対して、正しいソリューションはないと思います。そこで暮らしている人々の持続している行動で変化の可能性が膨らんでいくことが一番大事にすべきところだと思います。