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シリーズ 山と仕事 Vol.4 成瀬洋平さん「山/街/人/岩 どれにもつながることができる快適さ」


ROKKONOMADに滞在してくれた方とのやり取りから、「山と仕事」のあり方について考えていくシリーズ、その第4弾。今回はライター、イラストレーター、クライミングインストラクターとして活動する成瀬洋平さんです。2週間、滞在しながら制作や講習会などを行ってくれました。

ROKKONOMAD滞在中、ロッククライミングのスクールを開催してくれた成瀬洋平さん。

成瀬さんは山にまつわる文章や水彩画を雑誌に寄稿したり、中学生から慣れ親しんでいるロッククライミングを仕事にして、インストラクター業もしています。いつもは生まれ育った岐阜県中津川市を拠点に活動していますが、今回、六甲山でのクライミングスクールを企画・実施がてら2週間ROKKONOMADで滞在。スクールの合間には、ここでの体験記を登山雑誌に書いたり、六甲山の岩場からの風景を絵にするなどして過ごしました。

山と街のこの近さは来てみないと理解できない

――普段岐阜県の拠点にいらっしゃるときはクライミングをすることとその他のお仕事と、どのようなバランスで行っているのですか。

家の近くにも岩場があるので午前中に執筆などの仕事を終わらせて昼から登りに行ったりとか。多いときは週に7日登っていることもあります。地元の岩場の整備などしているときもあります。

――神戸でロッククライミングをするのは今回が初めてと聞きましたが。

はい。でも私がクライミングインストラクターの資格を取得したときの検定員が神戸在住の山岳ガイドをされている方なんです。早速こちらの岩場にも案内してもらって、六甲におけるクライミングの歴史など教えていただくことができました。

成瀬さんは滞在先で出会った印象的な風景を水彩画で残している。

――神戸の印象はいかがですか?

僕もクライミングを通じて結構いろんな地域を訪ねていますが、これだけの規模を持った都市でありながら山や岩場が近いことに一番驚きました。海外だと都市からアウトドアフィールドが近い街はあると思いますが、国内でこんなバランスを持つ街は他にないのではないでしょうか。「毎日登山」(※)というこの地域特有のトレッキングの文化も知らなかったです。また、街に来たら街に来たで面白いところがいっぱいあるし。

※毎日登山……健康目的で身近な低山に日々のぼる習慣。明治時代、神戸に住む外国人が始め、地域の人々に根づいた。

北山公園(西宮市)や烏帽子岩(神戸市北区道場)など、ROKKONOMADから車で30〜40分で行ける岩場は少なくない。写真は北山公園。 写真=尾崎基文 *

クライミングは気持ちの切り換えになる

――今回の滞在では、期間内にクライミングスクールも開催してくだいましたし(スクールの詳しいレポートはこちら)、その下見も兼ねつつ毎日のように岩を登っていらした印象です。日常の中にクライミングがあるというのはどういう感覚なのでしょう。

保塁岩(ほるいいわ)に登るクライミングスクールの参加者。

大体何をしていても仕事の心配事や今後のことがつい気になってしまいますが、クライミングに行って岩に登っているときだけは、そのルートをいかに登るかという一点に気持ちが集中するので、いろいろな物事から解放されることができるんです。登り終えて、帰途につくときに、そういえば、メール返さなきゃとか、あの仕事はいつまでにしないといけなかったとか、いろいろ思い出す。そこの切り替えがすごく気持ちいいということはあると思います。

――オフィスワーカーの場合、ずっとPCと向き合っていると体も動かさず目からだけの情報に偏りがちですけど、クライミングは対照的というか、本当に全身でいろいろなインプットを得ている印象があります。

そうですね。まず手と足の指先で岩の感覚をつかみ取っていくのですが、場所によっては数ミリ単位で、ずれるともう持てなくなってしまったり、落下してしまう可能性もあるので、位置、角度、タイミング、バランスなど、フルに頭と手を動かしながらいくつもの情報を瞬時に処理していかなければなりません。

クライミングスクールは計4日間開催された。(詳しいレポートはこちら

また自然のコンディションも大きく関係してきます。その日の湿度・温度といった気候条件。岩の表面の乾燥具合や、風の強さも影響を及ぼします。

もちろん、自分の体のコンディションも関係します。どこか痛いとか、ストレッチが足りていなかったとか、昨日食べ過ぎたとか。そういう影響もてきめんです。

脳も皮膚感覚も運動感覚も総動員して、なおかつそこに合わせて自然の条件も交えて、のぞまなければいけない。だからこそ面白いし、短い時間でもギュッと濃縮した時間が過ごせます。

参加者のためにトップロープを掛けに行く成瀬さん。

――先入観で、難しそう……という印象も持ちますが、ロッククライミング未経験の私でもトライできる余地はあるのでしょうか?

全然ありますよ! クライミングはその人なりに、難しいルートを選ばなければ意外と年齢や性別に関係なく遊べるアクティビティでもあるんです。実際、今回六甲で行ったスクールの参加者でも、50代後半でクライミングを始めて現在60代半ばという方もいらっしゃいましたし。また岐阜で私はキッズ向けの講習会なども行っています。

六甲山は日本で一番最初にロッククライミングが行われた地域でもあるわけですが、実際、岩がとても多いですから、ぜひ生活の中に取り入れてもらえたらと思いますね。

堡塁岩は日本の中でも特に古くから登られてきたクライミングスポットで、その歴史は大正時代までさかのぼる。

――今回、ROKKONOMADから徒歩で20分くらいの堡塁岩(ケーブル山上駅からは徒歩10分弱)でもスクールを行いましたが、そこも初心者はできますか?

堡塁岩は実は優しいルートが多く、むしろ難しいルートがそんなにないクライミングスポットなのです。もちろん安全確保は必須ですが、ヘルメット・シューズ・ハーネス・ロープなどの装備を持った上で、インストラクター資格を持った方と一緒に行けばできると思います。

[編集部注:未経験者がひとりで装備もなく興味本位で行かれることはおすすめできません。]

何と言っても近いですから半日もあれば結構遊べるし、その前後で仕事することも十分可能です。

今回の滞在で大きかったことのひとつは人との出会いが充実したことと言う成瀬さん。こちらもROKKONOMADで出会った人を描いた一枚。

山も街も多様な人との出会いがあった

――ROKKONOMADでの2週間の滞在を終えて、どんな感想をお持ちですか。

「ワーク・イン・レジデンス」プログラムへの参加を通じて、数日の旅でなく滞在の形を取れたことで、ここでの時間が生活となり、だからこそいろんな気づきが多かったと思います。 

それからROKKONOMADに行くと山上なのにいろんな業種や考え方の人たちと出会え、また街に降りて行けばそこでも面白い人との出会いがあって、さらにクライミングに行ってもいろんな人がいて。普段にない刺激的な出会いが豊富にできた2週間だったと思います。自分の拠点に戻って活動する際にも活きる経験をいくつもすることができた、という手応えを今感じているところです。

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クライミングスクールレポート
成瀬さんがROKKONOMAD滞在中の様子について綴った記事が登山雑誌「PEAKS」のウェブ版にて公開中です。

成瀬洋平プロフィール
1982年岐阜県生まれ。「PEAKS」「岳人」などの山岳雑誌や「PAPERSKAY」などトラベルライフスタイル誌などで活躍するライター、イラストレーター。日本山岳ガイド協会が認定するスポーツクライミングインストラクターの資格を持ち、各地の岩場でフリークライミングの講習会・体験会も行っている。

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(コラム執筆=安田洋平 撮影=藤田 育[*印の写真を除く])