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「この岩は世界に一つ、ここにしかない。だから楽しい」成瀬洋平・クライミングスクール
12月9~12日、ロッククライミングのスクールが、ROKKONOMAD滞在中の成瀬洋平さんによって行われました!(成瀬洋平さんについての紹介はこちら)
ライター、イラストレーター、そしてクライミング・インストラクター。複数の顔を持つ成瀬洋平さんがROKKONOMADに2週間滞在する間に、六甲山の岩場でクライミングスクールを行ってくれました。舞台となったのは、裏六甲の烏帽子岩(えぼしいわ/北区道場町)と、堡塁岩(ほるいいわ)。
今回は堡塁岩でのスクールに同行させてもらってきました。堡塁岩は何と六甲ケーブル山上駅のすぐ近所。徒歩約10分でその入口へたどり着くことができます。ROKKONOMADからだと徒歩20分程度の距離。
ここの岩はちょっと“からい”
堡塁岩は、芦屋ロックガーデンと並んで日本国内で最も古くからクライミングが行われてきた岩場。この場所でクライミングが始まったのは大正時代と言われています。東稜、中央稜、西稜の3つのエリアがあります。
早速、中央稜のトップに到着。そこから60mほど下に降りていきます。
今回スクールに参加した方たちは、東京、神奈川、岐阜、大阪などさまざまな地域から集結。神戸の岩に登るのは初めてだそうです。
「ここのルートはちょっと“辛い(からい)”ですね」「そうだね」。皆さん手際よく準備し、早速一回登ってみて、その感想を交わしていました。初めての保塁岩、今日のルートは、5.6(ファイブ・シックス)。クライミングのルートには世界基準として定められたグレードがあり、5.6は初めての人でも登れるくらいの難易度なのだそうです。ただ実際に登ってみるとちょっと岩に癖があって5.6にしては若干の登りづらさがあるようで、そのことを指して「辛い」と形容していました。
簡単なグレードだと5.3とか5.4。5.5、5.6、5.7、5.8……とレベルが上っていき、5.10(ファイブ・テン)以上になると5.10a、5.10b、5.10c、5.10d、5.11a、5.11bと難易度も高くなり、目下、世界で一番難しいロッククライミングのグレードは5.15d(ファイブ・フィフティーン・ディー)。クライマーの間では世界中のクライミングスポットについて、このルートから登った場合のグレードはいくつ、というデータが記載されたルート図(トポ)が共有されています。だから今回の堡塁岩についても、あらかじめルートとグレードを確認してから登ることができるわけです。ちなみに保塁岩はほとんどが5.10以下で、時々5.11があるくらい。比較的優しいルートが多い岩場とのことです。
二人一組で行おう
今回のスクールではトップロープクライミングのスタイルを採っているので、クライマーとビレイヤー、二人一組でクライミングを行います。
“ビレイ”とはロープを使ってクライマーの安全確保をすること。ビレイヤーは、クライマーの下でロープを操作する人のことを言います。
「ハーネス(※ロープと自分の身体をつなぐための安全ベルト)をつけて、ビレイヤーとペアを組んで行います。一度ロープにぶら下がって安全だと分かればそんなに怖くはなくなるはず。ビレイヤーとの信頼関係が大事です」(成瀬さん)。
この日は12月初旬にもかかわらず風も少なく日差しも暖かく天候条件に恵まれました。「寒いと岩が冷たくなって指がかじかんでしまいますから。それに、クライミングは休んでいる時間が結構長いアクティビティなので」。じゃあ、寒くない天候のほうが良いのですね?と聞くと「そこは一概には言えなくて。寒いときの方が指も汗をかかなくて済むし岩も乾燥して状態が良い場合が多いので、難しいルートにトライするときはむしろ雪が降るか降らないかくらいの気温を選ぶこともあります。そういうときは、チョークバッグの中にカイロを入れて、指先だけ温めたりしながら」。
先人に敬意を払いながら登る
成瀬さんも堡塁岩は今回の滞在で初めて登ったそうですが、感想としてはルートに穿たれたボルトの数が少なく、ハーケン(岩壁の割れ目に打ち込む金属製のくさびのこと)もあるにはあるけれど結構古いものが多いので、初心者だけで行ってトップロープをかけて安全に登れるかと言えばやや難しいだろうとのこと。そういう意味では、烏帽子岩(神戸市北区道場町)の方が整備されているので初心者でも安心感があるということです。
「でも、じゃあ新しいボルトを打てばいいじゃないかというと、そうではなくて。自分の都合だけ考えてボルトをむやみに打っていったら、それはクライマーとして責められるべき行為です。基本的に私たちの世界では新たなボルトを打つなら『初登者(初めてそのルートを登った人)に許可を取る』というのが常識。最初にこの岩を発見し、岩の掃除もして、時には死ぬかもしれない命がけの冒険の中で登った人への敬意を払わないといけません」。
堡塁岩の初登は大正時代。現在は関西岩場環境整備ネットの方たちが協議に協議を重ね、必要最小限のボルトの打ち換えを行っているそうです。
これからも楽しんでいけるように
成瀬さんは日本山岳ガイド協会が定めるスポーツクライミング・インストラクターの資格を持っています。インストラクターとしては自分たちだけでクライミングに取り組める技術を身につけてもらえるように教えるのと同時に、クライミングに対する取り組み方・考え方について伝えていくことも意識しています。それがないままクライマーが増えていってしまったら、岩はむちゃくちゃになってしまう。この岩は世界にひとつしかない。これからも楽しんでいけるように地域の岩を引き継いでいくことが大事です。
なお、現在は街なかでもボルダリング・ジムが増えていますが、そうした人工のジムに行ったことがなくて最初から自然の岩でクライミングを始めても全然良いそうです。ただ人工壁はクライミングの動きを練習するには有効なので、行っていると上達が早くなるとのこと。
今回、私も取材のかたわら人生初のロッククライミングを堡塁岩で体験させてもらったのですが、信頼できるインストラクターと一緒に行ける仲間がいれば、チャレンジできないことはないと感じました。もちろん、ロープ、ハーネス、ヘルメットは必須。安全確保の意識を怠らないことは言うまでもありません。
「ルートのグレードもいろいろあるので、自分のレベルや年齢に合わせて行えば、生涯楽しめるアクティビティだと思います。たとえば中高年になってから始める方も結構いらっしゃいますよ」。
クライミング+ショートトリップ
「今回の私もそうですが、旅とクライミングを組み合わせるのもオススメです。クライミングがきっかけで知らない場所へ旅をして、岩に登るのと合わせて、その土地の文化や美味しいものに触れられるのも喜びです」
成瀬さんは4日間に及ぶ今回のスクールを終えて、普段の拠点である岐阜県中津川市に戻りましたが、神戸在住の方で優秀な山岳ガイドさんはいらっしゃいます。ガイドの方と朝6時に待ち合わせして、岩登りを楽しみ8時半くらいに解散。それから仕事。そういう楽しみをしている人々も神戸にはいるそうですよ。
-注意-
記事中で紹介した通り、安全確保をしっかりした上でガイドの方と一緒に行けばことさら恐れることはありませんが、興味本位で足を踏み入れると危険が伴う場所であることには変わりありません。他のクライマーたちへの迷惑にならないことも忘れないでください。各自準備を怠らず、自身の責任のもとで行ってください。
(コラム執筆=安田洋平 撮影=藤田 育)