ロコノマドからのお知らせやコラムを紹介しています。
六甲ミーツ・アート「トレイルエリア」を歩いて脳を活性化
オランダの先進的な思想と事例からヒントを得ながら、これからの働き方について考えるプロジェクト「NL/ROKKO」。2022年から始まったこの企画、今年はNL/ROKKO名義で六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyondにも参加もさせてもらいました。「成長って何?」をテーマにした展示を11月23日まで開催。
森は思索の場所として向いています。目の前のルーティンをこなすことが第一になりがちな街なかでの日常と違って、一拍置いて、物事の本質について落ち着いて考えることを自然とさせてくれる。そして、今年2023年のNL/ROKKOは「成長を再定義すること」をテーマに掲げています。ご存じの通り、現在の日本経済はかつてのような右肩上がり成長が当たり前だった時代ではなくなり、低成長が常態化しています。ただ、そもそもの話、成長とは何なのか? その再定義・再解釈が今求められているのではないかと考えたところから、「みなさんが思う『成長』とは何ですか?」と呼びかけ、めいめいの考えを書き綴ってもらって、そのコメント群を一斉に森に展示し共有するという試みを行っています。11月中旬現在、既に1000もの意見が集まっています。ぜひ、この場所へ足を運び、“成長とは何かを考える森”に身を浸してみてください。
今年から六甲ミーツ・アートには、「トレイルエリア」が新たに加わりました。文字通り、山道を歩きながら、啓蒙的な作品たちと出会うことができます。土の道を踏みしめ木々が発する精気によって副交感神経を活性化させながら、多様なクリエイティブ表現を自分の中に入れていける、そんなゾーンです。
トレイルエリア展示の一部を紹介。C.A.P. (特定非営利活動法人 芸術と計画会議)が手がけた部屋はあたかも六甲山をもう一度知り直し、違った視点を獲得するためのラボのようです。六甲山関連の書籍がずらり並んでいます。中でも興味深いのは「六甲山とはどんなところか?」についていろいろな人に寄稿してもらった文章群が展示されているコーナー。気に入った文章をピックアップして、自分だけの冊子がその場で作成できるようになっています。「危機に瀕している六甲山のブナの森について」(ひょうご環境創造協会 栃本大介さん)、「六甲山のハイキング道で見つかる炭酸飲料瓶の割れたかけらから知る、水も瓶も地域で循環するシステムについて」(神戸市職員 志方功一さん)。またメディアアーティスト銅金裕司さんによる文章の中の一文が目に留まりました。「『六甲』とはぼくらの人間の理性を遠ざけることではないか」。確かに、山の上だと、街にいるときとは違うチューニングを自分にもたらすことができる気がします。
ROKKONOMADのハウスアーティストでもあるロク・ヤンセンさんの展示。樹木の横で菌糸が土の中から伸びている、そんなイメージを想起させます。あるいは、そのニョキニョキとしたもの同士が、目に見えない地中で連携していて、さらに大樹とも実はつながっているのではないかと空想します。この作品についてヤンセンさんと話したのですが、「It’s not only just about tree, it also about reality of general us.(それは樹木のことだけでなく、私たち全般の現実についてでもある。」 と語っていました。木は、生物や土中環境などさまざまなものと関係づきながら生息している。人体だって、腸内だけで兆の単位で細菌が生きていると言われるように、単一ではなくいろんなものとの関係によって出来上がっている。移りゆく日の光のもと、木と、その周りの一群を眺めながら、世界を構成するさまざまな結びつきについて連想しました。
横手太紀さんの作品「星のいるところ」。そこではデジタルモニターに加えて、兵庫県内の狩猟者が獣害対策やジビエ用に仕留めた鹿の皮が使用されていました。
土の上に置かれた獣皮の下にはモーターか何かの動力源が仕込んであるようで、皮は一定のペースで波打つように動いています。あたかもそこに身を横たえている動物が寝息を立てているかのように。その場でずっと見ていると、自然の動物(の擬似的存在)が立てる呼吸のテンポに自分の呼吸がシンクロして、気分が落ち着くのを感じました。
六甲山上に残る古い山荘を公開し、会場として使った中﨑透さんの作品。この山荘を毎夏避暑用に使っていたご夫婦の若き日の恋愛エピソードを作品化していましたが、そこからは非日本的というかモダンな恋愛の香りが漂ってきました。阪神間モダニズム(※)の系譜に連なる、本宅が御影など街なかにあって、さらに避暑を目的とした生活のサブ拠点としての山荘を持っていた人々の当時の生活を垣間見ることができました。つまりは二拠点生活ということだったわけですが、現代の私達の生活様式に照らし合わせて、このような平屋の山荘、ラブのための空間というより、ワークプレイスとして活用したらどうであろうなどと妄想してしまいました……。
(※)阪神間モダニズム……主に1900年代から1930年代にかけて、阪神間で育まれたモダンな文化や生活のスタイルのこと。
ROKKONOMADから出発してトレイルエリアを巡っていくと、そのゴール地点付近で遭遇す
るのは、川俣正さんが手がけた水上テラスの作品です。六甲山に点在する山上池を生かした作品です。もともと池の真ん中に浮き島がありましたが、その場所を舞台空間として読み替え能舞台のようにデザインしています。実際、六甲ミーツ・アートのオープニングでは、AiRK(アーティストインレジデンス神戸)の森山未來さんのプロデュースで、ダンサーのダニエル・プロイエットさんがこの場所で舞踏を行いました。この作品は、今年の六甲ミーツ・アートが終了しても数年間は残されるということですので、この先も、唯一無二のロケーションを活かし、音楽や踊りなどの特別な演目がこの場所で上演されることを望みます。
なお、六甲ミーツ・アートの一環ではありませんが、ROKKONOMADの庭では他にもアートの展示が催されていました。百葉箱のような装置から、不定期にシャボン玉が発生していましたが、実はこれは東京の街なかとリモートでつながっているメディアアート。東京・有楽町にある別会場に設置された感熱デバイス装置にフーッと息を吹きかけると、六甲山上、ROKKONOMADの庭にある箱にその情報が伝達されて、シャボン玉が空に舞うという作品。既成概念を超えていくクリエイションが、こうして山の上にどんどん持ち込まれるのは良いと思います。また、このように先端的・開拓的なクリエイターがROKKONOMADのワーク・イン・レジデンスの仕組みを活用して積極的に滞在していただけたら良いと思いました。
そう言えば、トレイルエリアのルートに沿って歩くと、アート作品以外にも刺激的な出会いがあったりします。今回も、日本で最古のゴルフクラブ「神戸ゴルフ倶楽部」の脇を通り過ぎるとき、ゴルフ場のグリーンに目をやると、キジが当たり前のような顔をしながら歩いていました。
ROKKONOMADで仕事しつつ、その合間に息抜き兼ねて六甲ミーツ・アートでアートクルージング。自然からの刺激に文化的な刺激も加わって、ちょうど良い気分転換ともなります。ぜひ来年の六甲ミーツ・アートでもトレイルエリアの展示を継続してもらえたら嬉しいです。