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これからのワーキングロケーション

ROKKONOMADのコテージで仕事をしている風景。 撮影=藤田 育

20年前の出来事

今から20年前、当時僕らが始めた事業は順調に売上が上がり、軌道に乗って安定しようとしていた。だがそうした矢先、成功のキーマン的存在であった営業マン第一号のMくんのデスクはある日、オフィスから消えた(正確に言うと、「もうお前、オフィスなくてもやっていけるだろ?」と同僚によって勝手になくされた・笑)新規ビジネスを成功させるという賭けに勝ち、獲得した地位。てっきり彼の席は不動なのかと思っていたら実際は逆だった。有能だと場に落ち着くのではなく、失うのか?と、ひどく驚いたのを覚えている。もっともそんなこちらの動揺などどこ吹く風、彼はその後も飄々と日中はあちこちに営業に出かけ、帰陣する先はオフィス、ではなく、その建物の1階に入っていた知人の経営するカフェのカウンター席の隅に陣取ってノートPCをカタカタ打っていた。“元”オフィスにはごく限られたスペースにいくばくかの私物が置かれていただけだ。

ROKKONOMADのPR動画より。施設のデッキをドローンから撮影。季節によって木々の色が変わる。

人は進化すると、精神的にも空間的にも自由になるのか?
僕がそう自問するきっかけになった最初の出来事だ。

リモートワークはかなり前から始まっていた

2回目に驚いたのは8年前、神戸の知人がロサンゼルスに久しぶりに行ってきたと言って現地のオフィス事情をレポートしてくれたことだ。話によれば以前のオフィスレイアウトでは、窓際の一番景色の良い席はボスやリーダーの場所と割り当てられていたが、年月を経て時代が変わり、上司の席はオフィスからなくなり、外で営業してくるか、作業をするなら主には自宅でどうぞ、というのが目下の傾向なのだと。なんと、Mくんと同じだ。聞いてまず思ったのはそのことだ。やはりワークスタイルは進化すると場所に留まるのでなく、そこから逃れるのである。2013年時点で、アメリカ西海岸ではリモートワーク/在宅勤務が定着し始めているという事実にも強い印象を持った。

神戸は都市全体がワーキングロケーション、の図。リモートができるようになって都心部だけでなく、いろんな場所が働くスペースとして検討できるようになった。山、海、農村だって選択肢にしやすい時代に。

自由なワーキングロケーション

そして現在。この原稿を書いている僕は神戸を会社の所在地としているが仕事のパートナーである弊社社員がいるのは千葉の自宅だ。タイムカードも毎日提出してもらっているし(もちろんデジタル)、定例会議もオンラインで行っているけれど実を言うと、この6年の間(6年前に東京から移住したので)リアルでは社員に会ったことが一度もない。 

僕が神戸に移るきっかけをつくってくれたKさんはと言えば、神戸の街なかにメインオフィスを持つが、車で40分ほどの農村地域にもうひとつ拠点を持っており、たまにそっちでも寝起きしたり作業したりしてるようである。 

さらに現在、山上のオフィスができようとしているわけなので、もう数ヶ月もすれば、フレキシブルワーカーにとっては、街から車で30分の山上にも拠点オプションが増えることになるだろう。

どこからログインするか

ROKKONOMADは2021年3月末オープン、まだ改修の真っただ中であるが稼働可能なコテージを利用して、数日間お試し滞在してもらい仕事もしてみてもらう、ワーク・イン・レジデンスの取り組みを試験的に始めている。3組実施したのだが当たり前のように3組とも山上からクライアントとオンライン会議を行っていた。

「今どこからログインしてるの?」 撮影=野田 亮

ネットで会議を山でしていると自分の画面の背景に木々などが映り込むから「いったいそこはどこなんだい?」と話のネタになるらしい。今の時代、どこからオンラインにログインしているかが、ひとつのワーカー表現になるのではないだろうか? ネット上のミーティングルームに入室する皆が、めいめいに違う気持ちよさそうな場所からログインしていたらどんなに楽しいだろう。そっちの場所も良さそうだね。今度はオレがそこに行くことにするよ、なんて会話が交わされているさまを妄想するだけでワクワクしてくる。

六甲山の上はHike&Bikeもできる。 撮影=藤田 育

籠もるなら気持ちの良い場所で

いくつかの都市では緊急事態宣言が再発動され、またも外出自粛の号令。もはやこれが日常のデファクトかと、あやうく錯覚してしまいそうだ。鬱々とした気分にともすれば襲われかねない。だけど外出しなくたって、今いる場所が閉塞感がなくて気持ち良ければストレス値を少しでも下げられるんじゃないだろうか。どうせ籠もるなら気持ち良い場所で。というわけで、ステイ・イン・マウンテントップ、いかがでしょうか。

自転車で山からサーッと下りて里を走ることだって。いろんな場所を楽しもう。 撮影=藤田 育

(コラム執筆=安田洋平)