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六甲山で暮らすリアル Vol.3 街で内装の仕事をしながら、六甲山上で店を営む

内装業や家具製作などを仕事にしている松本智史さんが家族で六甲山に越してきたのは5年前。ログハウスを建てる場所を探そうとしたのがきっかけ。今もその夢は諦めていませんが、まずは現在暮らしている家のガレージを改装し、「OLD PEGG by glamu.」という家具・雑貨の店を2024年7月にオープンさせました。

六甲山上でログハウスに住みたかった

松本さんが六甲山上でオープンしたお店「OLD PEGG by glamu.」の前で。

――生まれ育ちは関西ですか?

いえ。もともと広島県の生まれで22歳くらいまではずっと地元にいたのですが、勤めた会社の支店が大阪にあり僕がそちらの切り盛りを任されることになったので、そこから兵庫県の西宮市に越して暮らすことにしたんです。会社は店舗を始めとした商業施設の内装デザインと施工を主に行う会社でした。 

――兵庫県に越してきて六甲山に来るようになったのですか?

ずっとログハウスを建てるのが夢だったんです。それで三宮で店舗内装の現場があると、その帰りがけに六甲山に寄り道していました。ここだったらログハウスを建てるのにぴったりの土地があるんじゃないかと思って探していたのです。

店内の様子。海外から買い付けてきたアンティーク雑貨や松本さんが製作した家具などが並んでいる。

でもなかなかちょうど良い土地が見つからなくて。六甲山は保養所として建てられた建物が多い一方、コンパクトな建物や土地はそんなにないんですよね。定期的に通っていたので、山の上で暮らしていらっしゃる方の知り合いもできたのですが、1年以上通っても場所は見つからず。ただ、この物件を見つけることができたので引っ越すことに決めたんです。

――ここはもともと何だったんですか?お店ですか。

いえ、住居とガレージとして使っていらっしゃったそうです。今僕がお店として使っているのはガレージ部分です。隣接して住居として使われていた平屋の建物がありまして、僕ら家族も現在そこを自宅にして暮らしています。

ショップは、六甲山アスレチックパークGREENIA/六甲山スノーパークの駐車場のすぐ脇にある。

お店は7月にオープンしたばかり

――お店ではどんなものを売られているのですか?

家具や雑貨です。新品の商品もありますし、アメリカから買い付けてきた古いアンティークの品も置いています。椅子や時計など、僕がつくったオリジナルの木工製品もあります。
店に併設した工房でもある程度の作業はできます。また、こことは別に大阪・豊中にも工房があって、そこに仕事のパートナーもいるので、本格的な製作はそこで行っています。

「もののつくりがしっかりしているアンティークが好きなんです」と松本さん。

――お店は何曜日にオープンされているのですか?

徐々に整えているところなので、現在はまだ予約制で業者向けにオープンしている限りです。もう少ししたら一般の方たちにも立ち寄ってもらえるようにしたいと考えています。
ここの店内は小さなものしか置けないですが、実は近くにもう一個大きな倉庫スペースがあって、ソファーなど大型家具などはそちらに置いてあるんですよ。

普段は内装の仕事を行う

――お店の日以外はどんなお仕事をされているのですか。

今も店舗内装の仕事が中心です。たとえばアウトドアアパレルのショップの内装など、関西圏中心で現場に行っていることが多いですね。でも何でもやりますよ。外装を手掛けることもありますし家具もつくるし植木の仕事もします。「何でもできた方がいいんじゃないか」というのが学生時代からの考え方でした。

松本さんが製作した椅子。

車屋で働いていた時期もありますし、バーテンダーをしながら料理をつくっていたこともあるので料理も得意です。もともと学生時代は服飾の勉強をしてましたから縫製もできます。それらの経験が集結して今の自分のものづくりにつながっているので、木と布と鉄を組み合わせたりもできますし、良かったなと自分では思っています。家具と雑貨の店として始めましたけど、そのうち料理も提供したいと実は思っています(笑)

子どもたちは街の小学校に通って、山の家に帰ってくる

――六甲山に引っ越してこられたのは5年前とのことですが、学校はどうされていますか?

今うちは小学校5年生の娘、小学校2年生の長男、幼稚園の年少の次男と、3人の子どもがいます。山の上にある六甲山小学校にも憧れるものがあったのですが、いろいろ考えた結果、生徒数の多さを優先して、山を降りてすぐのところにある神戸市立鶴甲小学校に通わせています。ただ、山の上の生活でありながら、そうした選択肢が持てるところも六甲山の良さだと思っています。
六甲山の自宅から小学校まで子どもを車で送っても15〜20分です。加えてケーブルもバスもありますから、今では小学2年の長男も自分一人で家まで帰ってきます。

お店に併設された工房スペースにて。

――都市の生活を組み合わせられる良さがある。

ええ。ただ都市との距離が近いことは六甲山の特徴のひとつですが、環境的には山ですから温暖化と言いながら山の上は気温的に涼しい。うちはまだ夏にクーラーをつけたことはないです。 
困る点があるとすれば湿気です。家具も置き方を考えないとすぐカビが生えてしまう。うちは木工家具や雑貨を商品として置いているからなおさら気を遣っていて、風通しを良くしたり除湿機を多めに入れたり。とにかくカビが生えやすい点は大変です。
でも実はコロナ禍がきっかけで良い解決法を発見したんですよ。当時は習慣的に何でもシュッシュッと消毒していたと思うのですが、有名なアルコール入りの除菌消臭スプレー、それで家具を拭くとカビが生えないことがわかったんです。これは発見でした!

――お子さんたちは、山へ越して来てどんな様子ですか?

ゲームもしますが木登りもします(笑)ナイフやノコギリなども日常的に使いますが、怪我したらわかるので僕はあまり先回りして言ったりはしませんね。現代の子どもでも、自然が目の前にあれば、それで遊ぶことには変わりはありません。

木を自分で加工して食器をつくることができるワークショップ

松本さんが作業するだけでなく、お客さんに木を使ってものづくりをしてもらえるワークショップを開く予定という。

――こちらのお店では木工ワークショップなどもできるようにするご予定と聞きました。

木工旋盤があるので、木を加工してボウルや一輪挿しなどをつくるワークショップを開催しようと思っています。高速で回転する木材に刃物をあてて削りながらかたちをつくっていくことができるのですが、そんなに難しいものではないです。もちろん私が付いてお教えしますが、一般の方でも木皿など自分でつくれるようになります。早い人なら1時間程度でできますし、お子さんでも簡単なものはつくれます。自分でつくった器でご飯を食べたら最高ですよ!

木工旋盤を使って自分だけの器をつくることができるそうだ。

山にあるものは何でも使える

――先ほど夏は涼しくて冷房が要らないとおっしゃっていましたが、冬はいかがですか。

夏はクーラー要らず。冬は薪を集めて、薪ストーブで暖を取る。

冬はもちろん寒いのですが、薪ストーブを入れていて、薪も仕事で生じる端材や廃棄された木から薪をつくって使っているので、燃料費はかからないですね。

――すでに出来ているものを買うというのでなく、身の回りにあるものを利用して使ったりつくったりということが習慣になっている印象です。

山にあるものって本当に何でも使えるんですよ。たとえば紫陽花もたくさん生えていますがこうしたものもドライフラワーにしてリースにしたらすごく良い雰囲気になります。でも、こういうものも、街中では結構な値段で売られているわけです。
また六甲山には山椒の木がたくさんあるのですが、鳥がその実を食べていろんなところで落とすから、またその辺で生えてくるんです。うちの庭にもありますが、料理の仕上げに山椒を使ったらものすごく美味しいんですよ。どれもこれも、出来合いのものを高いお金を払って手に入れるのではなく、タダで、しかも自分で手をかけてつくって享受できるのは、つくるという体験も含めて、とても豊かだと感じています。山には無駄なものなんて何一つないし、そこにあるものを使って何かをする楽しみが詰まっているなって思うんです。

――今つくりたいと思っているものは何ですか?

仕事でツリーハウスなどもつくっているので、庭の木にも小さなツリーハウスを近々つくろうかなと思っています。まだまだ六甲山でやってみたいことはたくさんありますね。

OLD PEGG by glamu.ウェブサイト

(コラム執筆・写真=安田洋平)