MOUNTAIN COLUMNS

現地からのレポートや、山上のワークスタイルについての記事を載せていきます

都市から30分山上ワークのススメ

「Rokkonomad(ロコノマド)」が神戸・六甲山の山上で3月末にオープンするのに向けて、ただいま各種準備の真っ最中。都合、山の上で過ごす時間が増えている。ちょっとした作業やネット会議は改修の始まった建物の片隅で行っている。その場で片してしまわなければいけない仕事だったからとか、そんな現実的な理由なのだが、実際のところ山で作業をし始めたら、その時間がたまらなく気分良く頭もさえてはかどる感じなのだ。せっかくなので、この機に山の中で働く効用についても調べることにしてみた。

NATURE FIX-自然の中での回復-

『NATURE FIX –自然が最高の脳をつくる-』フローレンス・ウィリアムズ(NHK出版)

『NATURE FIX –自然が最高の脳をつくる』(NHK出版)という本を読んでいるが、非常に興味深い内容が多いので、いくつか書き抜いてみた。

「森の中をゆっくり散歩すると、都会を歩いているときと比べて、従来ストレスホルモンと呼ばれていたコルチゾール値が16%も下がることを発見した。それだけではない。交感神経の活動が4%、血圧が1.9%、心拍数も4%下がった。」

「現代の生活では用事が山積みとなっているうえ、外部から絶えず刺激が入ってくるため、闘争・逃走反応をつかさどる交感神経系の働きが活発化しやすい。(中略)コルチゾール値が高く血圧も高い人は、心臓病、代謝疾患、認知症、うつ病に羅患しやすくなる。最近の研究によれば、都会生活のストレスをつねに感じていると脳に変化が生じ、統合失調症、不安障害、気分障害を発症しやすくなるという」

「オフィスではメールがきたり着信音が鳴ったりと、なにかしら音が聞こえているだろう?つねに取捨選択を迫られている状態だから、脳は物事を深く考えられなくなる。でも、ここ(注:大自然)にいるあいだは、さほど取捨選択を迫られないから、ひとつの物事にじっくりと集中できるようになる」

「自然のなかを歩いたあとの被験者は、記憶力・注意力を測定するテストの結果がとりわけよく、気持ちも明るくなった」

この本の中にも書かれていたが、2008年に、世界中の人口のうち、都市部に暮らす人が過半数を超えたそうだ。その流れはさらに加速すると言われている。

テクノロジー進化と、自然の中で過ごすことの相関性

都市生活が基本になればなるほど、またテクノロジーが進んで便利になればなるほど、比例して自然の中に身を置くことの必要度も上がっていくのではないだろうか。
情報端末とネットが充実すればするほど、脳はマルチタスクにさらされ、また処理する量ややり取りの回数も増えて、不安感やストレスも強くなりやすくなる。新型コロナウィルスの感染も脅威だが、それと同じくらいに、情報疲労が大きいようにも感じられる。
これからの時代、気を散らすたくさんの物事から少しでも解放されるように環境を整えるセルフマネジメントが不可欠となってきている。不安障害や気分障害(うつ病等)、あるいは自殺。良い仕事をする以前に、死んでしまっては元も子もない。マネジメントする側にとっても、これ以上ない損失だろう。そうならないためにも、予防的に「オフライン」になれる場所を見つける必要がある。そう、山だ。

額縁のように切り取られた自然の景色の横で仕事をする。

在宅/リモートワークの気分切り替え

かたや、情報端末とネットの進化などを通じて良くなった面と言えば、リモートワーク、在宅勤務といった、働く場所の自由度が格段に上がったことである。とは言え、2020年、新型コロナウィルスをきっかけにリモートワークや在宅勤務が浸透して、その利点に多くの人が気づけた一方で、人と会ったり話したりする機会が減って何となく浮かない気持ちになったり、常に自宅とその周辺だけで過ごすせいで同じ景色・同じ生活リズムが繰り返しかされら新鮮味に欠けて生産性が下がったり、気分転換が難しかったり、そうしたモヤモヤを抱く人も少なくなかったはずだ。

街から30分の山

だからと言って、山の上までわざわざ行って働くか?そう思うかもしれない。けれども、自宅から、街の中心から30分程度で行けてしまう山があるなら、なしではないという気がしている。街のリズムで生活していると用事がひっきりなしだし、外的刺激も過剰で注意を喚起されるものが常に外部にたくさんある状態が続く。ほとんど休み無く脳は刺激の処理に追われている。対して、山の上に行けば、そうした圧倒的量の刺激から自分を切り離すことができる。注意力はむしろ自分の内面に対して向けることができるようになり、落ち着いてひとつの物事に集中して取り組めるようになる。

Rokkonomadのイメージムービーより。
街と湾を見下ろす。朝や夕暮れ時はまた違った表情を見せる。

働く場所の使い分け

普段は街なかで、でも自分の気分転換やストレス軽減を兼ねつつ、30分で行ける山のオフィスに月に何回か行くという程度であっても、悪い組み合わせではないのではないだろうか。 スコンと抜けた青空とその向こうに見える街と海、木の葉のさざめき、木漏れ日、そうした環境の中でリモート会議、あるいはこもって制作。そしてひとつ作業が終わったら、山道の散歩へ。アスファルトではなく、土を踏みしめる。そして数時間歩いて、戻ったらまた少し作業をする。そんなサイクルを月に数回取り入れる山の上でのワークスタイルがそろそろ定着し始めても良いのでは。

ロコノマドの予定地。現在この建物を改修中。

(コラム執筆=安田洋平)

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