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まさか、僕らが六甲山へ!後編 〜山の暮らしと働き方〜
神戸に暮らして8年目、まさか六甲山に家を買うことになるなんて思いもしなかった。そもそも六甲山には、住む場所というイメージすら持っていなかったのだから。僕と家族の六甲山暮らし、そのこぼれ話です。(前編 〜家探しから移住まで〜 はこちら)

山の「上で」二拠点生活はじめました
子どもの就学で六甲山小学校を選び、思い切って六甲山町の分譲マンションを購入したものの、庭付き賃貸物件との出会いにより、山と街の二拠点生活は2ヶ月で終了。あまり例のない六甲山町内での二拠点生活が始まった。

僕の仕事は編集やまちづくり関係のプロジェクトが多く、地域と自宅を行ったり来たりしているので自宅作業やオンラインミーティングの時間も長い。妻も大学院で学んでいるので個別の書斎があるほうがはかどるため、マンション拠点は二人の仕事場にすることにした。仕事が立て込んでいるときは、マンションの方に泊まり込み朝に帰ってくることだってできる。マンションにテレビを置いていないから集中できる環境がある。ネットも引いていないが、スマホのテザリングで概ねこと足りる。
そして、暮らしの拠点になった賃貸の家は便宜上、「ハウス」と呼ぶことにした。こちらにもネットは引かず、衛星インターネットのスターリンクを契約。山間でも北側の空が開けていれば平置きのアンテナでネットを開通できる。速度も問題ない。

この二拠点の役割分担が思いのほかよかったのだ。朝食を終えたら、清々しい森の空気と光を浴びながら歩いてマンション=仕事場へ向かう。距離にして10分もかからないのでちょうどよい切り換えの時間が持てた。歩けば花に出会う。虫に出会う。季節のにおいに出会う。近距離の移動であっても自然の移ろいを毎日感じる。ハウスの方も、家の裏手には沢があって向かいに隣家がないため、森の風景を我が家のテラスで「借景」している。たぶん裸で外にでても大丈夫なくらい誰もいない。

山暮らしは季節の「洗礼」とともに
1つ「春の山の洗礼」を挙げれば山アリだ。春先から大小の山アリが侵入してくる。油断するといつの間にか「アリ街道」ができているから困ったものだ。例にもれず我が家の両方の家にも山アリが侵入。おそらく食べこぼしのお菓子がよくなかった。山暮らしの先人でもある小学校の先生に相談すると「あ、はいはい、アリね」といった感じで効く薬を教えてくれた。
続いて「夏の山の洗礼」を挙げれば、濃い霧だ。朝方に視界3メートルになる真っ白い霧がよく発生するのだ。昔、霧に襲われるホラー映画があったがまさにそんな感じで、霧に襲われるように一体が飲み込まれていく。というか、雲の中ってこんな感じなのかも知れない。洗濯ものをしまい忘れた日は最悪である。シャツが濡れせんべいのようにぶら下がっている。

山の夜会で出会った、ゆるやかなつながりが心地いい
こっそり紹介する。実は、山の上では3ヶ月に一度のペースで場所をかえながら、ご近所さん同士の持ち寄りご飯会という催しがある。これには驚いた。料理の数とレベルが半端ない。そして色んな人が集まってくる。外国出身で長く六甲山に住んでいる人も多く、英語がばんばん飛び交っている。不思議なもので英語が話せない僕や息子も、すぐに仲良くなってしまう山の夜会のマジック。そういえば、乗り付けた軽トラックの荷台からバイオリンを取り出して演奏が始まったこともあった。

嬉しかったのは山に来てすぐのご飯会で、「今年、お子さんが六甲山小学校に入学される東さん一家ですー」と紹介してもらったことだ。一度の会で知り合いがすごく増え、地縁のない山に来た不安が全くなくなった。面白いことにこのご飯会、その日に山にいたら誰でもウェルカムなのだ。たまたま道で出会ったら「今日あるからおいでよ」とすぐ声がかかる。全員にとって、ここがいわゆる「地元」でないからこそ閉鎖的にならない心地よい距離感とフランクさ。次はいつあるのだろうかと家族みんなが楽しみにしている。

有馬温泉へ、牧場へ、六甲山最高峰さへも散歩気分で
山の上から有馬温泉へ行くのは家の庭に出る様なもので、もちろん車で行ってもスグだが、おすすめはバスとロープウェイで行く方法。これなら湯上がりのビールも飲める。また、山を下りなくてもほどよい散歩道がいくつもあるし、ちょっとだけ気合いを入れれば六甲山最高峰に登っても半日で往復できる。トレイルランをしている人ともよくすれ違う。六甲山牧場にだって思い立ったらスグ行けてしまうのだから最高だ。秋の紅葉の季節は特にいい。紅葉を見に行くというより、紅葉のなかに住んでいる感覚。こんなにも赤や黄の鮮やかさに触れたことはこれまでなかった。秋には六甲ミーツアートの開催もあって気軽に巡れる。息子の通う六甲山小学校では、子どもたちも作品をつくり特別参加している。



初めての冬がやってきて、水道が凍った
紅葉が終わると「いろいろ起こるわよ〜」と山暮らしの諸先輩方からありがたい助言を受けていた冬がやってきた。先輩方が言うには「オリーブオイルが凍る」らしいし「トイレの水が凍って便器が割れる」らしいのだ。案の定、水を元栓を止めて家を空けていたにもかかわらず、なぜかお湯の配管が凍ってしまい、2日間お湯が使えなかった。「冬の山の洗礼」である。
一方で楽しいこともある。冷え込んだ朝はいたるところで霜柱が上がり、それをふみふみするのが楽しい。我が家にはないが薪ストーブや暖炉のある家はそれ自体が楽しみになる。雪が降った朝、まだ誰も足を踏み入れていない展望台に一番乗りし、雪原に寝転がれるのも山の住人ならでは。


初めての六甲山暮らしのなかで驚きや嬉しい出会い、今までにない体験ができた1年目。家の庭にモグラが穴を掘っていたこともあった、道端にキジが歩いていたこともあった。カブトムシが部屋に飛び込んできたこともあった。裏庭のあけびの実を食べたことも山の栗を拾ったこともあった。全くアウトドア派ではなかった僕らが就学を機に六甲山に暮らし始めたことで、生活圏は都市に置きながら自然と向き合う日々をおくれるようになった。これは身の丈に余る贅沢としか言いようがない。息子がくれたラッキーである。とはいえ、まだまだ山の楽しみ方は初心者だ。2年目も3年目も、きっとこの山でしか得られない体験をするだろう。その報告はまた次の機会にでも。
了
(コラム執筆・写真=東善仁)
東善仁(ひがし・よしひと)
神戸を中心にまちに関わるプロジェクトに取り組む合同会社ユブネの共同代表。2025年より家族で六甲山町に引っ越した山暮らし初心者。