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山と仕事Vol.10 マルコ・ボス「子どもを六甲山小学校に通わせたくて引っ越しました」
オランダ出身のマルコ・ボスさんは留学生として神戸大学工学部の大学院に進み、卒業後シンガポールやマレーシアで働いた後「子どもは日本の環境で育てたい」と家族で神戸に戻ってきました。そして見学した六甲山小学校をすぐさま気に入り家族で六甲山上に引っ越し。オランダ伝統菓子・ストロープワッフルの店「ワーフルハウス」をJR六甲道駅のそばで営みながら、六甲山上での暮らしを続けています。
――もう六甲山上に暮らして18年ということですが、最初山に越してきたきっかけは何だったのですか?
その前はシンガポールとマレーシアでソフトウェア販売の仕事をしていて、あしかけ13年間東南アジアで暮らしていました。でも長男が小学校に上がる年齢になって日本の小学校に行かせたいと思ったんだ。それで日本に戻ってきた。知人から六甲山小学校を薦められて観に来たんだけど、ひと目で気に入って、六甲山に住むことを決めました。
――家はすぐに見つかりましたか?
知り合いになった人が記念碑台のそばにある家を借家として貸してあげると言ってくれて、そこに住みながら改めて家探しをして、3か月後くらいで元個人の山荘だった建坪70坪の一軒家を見つけて購入しました。でも、僕らの前にその家にはアライグマが住んでいたんだ。天井裏に花火をしかけたらそこから出ていってくれたので穴を塞いだ。それからは私たちの家になりました(笑)。
――5人家族とのことですが、下のお子さんたちは六甲山幼稚園に?
いえ、下の子どもたちは王子動物園のそばにある「幼児生活団」に通わせていました。生活団は自由学園などを創立したことで知られるジャーナリスト・羽仁もと子さんがはじめた幼児教育の場ですが、神戸にも拠点があったのです(※2023年3月をもって神戸の幼児生活団は終了の予定)。次男も娘も、ケーブルカーで山から降りて通っていましたよ。
――マルコさんは神戸にもともとゆかりがあったのですか?
私はオランダのハーレムという、古い家並みが美しい街の出身ですが神戸大学に留学して工学部情報学科で博士号を取得しました。妻とも大学時代に出会いました。その後シンガポールで就職し、さらには自分で会社を立ち上げて、マレーシアに家族で移り住みました。それから7年経って会社は人に譲って神戸に戻ってきました。以来、六甲山が生活の拠点です。
――日本に戻ってからはどんな仕事を?
最初は製薬会社に所属して、ホームページをつくったりしていました。大阪の会社でしたが打ち合わせのときなどを除いて、六甲山の自宅に居たまま作業できるケースが多かったので良かったです。ただ、その会社が東京に移ることになってしまったので退職しました。ワッフル屋の事業を始めることになるのはその後からです。
人と競争しながら仕事をすることが嫌いなので、他の人が行っていないことで仕事にしたかったのです。もともと菓子製造の経験があったわけではありません。ただ、料理は好きでしたし研究するのは好きなので、ネットなどで調べながら独学でレシピを作りました。ストロープワッフルは、オランダでは誰でも当たり前に知っている伝統菓子ですが、オランダで普通に売られている菓子材料で日本では手に入らないものがあったので、自分でつくり方をアレンジして日本にある材料で代替してできるようにしました。
それからいろんなイベントに出て販売して手応えを得たので、阪急六甲駅から徒歩1分の場所で10坪の小さな店を始めました。2010年のことです。その後少しずつ売上を伸ばし、2014年に現在の広い店へと移りました。ここが本拠地ですが、今は催事に出かけて全国で販売していることも多いですね。安定して売れますし、いろんな地方に行くことができるので楽しい(笑)
――JR六甲道駅そばのこちらのお店と六甲山のご自宅を往復される日々と思いますが、六甲山での生活で気に入っているのはどんなところですか。
街と近いけれど、確実にそことは違う生活ができるところだね。薪割りをして薪ストーブで家を温めたり。冬は冷燻の燻製器を使ってベーコンをつくるのが習慣だったり。自分で家のペンキを塗り屋根も自ら張り替える。ニワトリも庭で飼っている。実はこのお店のワッフルは私たちの家の鶏たちが毎朝産む卵を使っています。ニワトリは寒さにも強いから冬でも山上で元気に暮らしている。
それから、六甲山の話ではないですが、山の向こう側に降りれば神戸市北区や三木市です。そこで知り合いの猟師さんと一緒に罠を仕掛けてイノシシを捕らえて自分でさばいて食べたりもしました。秋、11月頃が一番脂が乗っていておいしいね。肉は自分で絞めて食べるのが一番良い。スーパーで売られているのと違って、どんな肉なのかもきちんと学ぶこともできる。
子どもたちも小さなときから僕と一緒に山をよく回っている。次男などは最初に罠にかかったイノシシを見たのは3歳のときだったよ。
――そんな幼い頃に? 泣いたりしなかったのですか。
いいえ。親にとって普通のことならば、子どもにとっても自然なことになる。六甲山に越してこようと思った理由は、さっき話したとおり子どもを六甲山小学校に通わせたかったからだけど、少人数だし本当に良い学校だった。子どもは自然のあるところで育てるのが一番と思いますよ。子どもたちが自然から学ぶことはいっぱいある。
ワーフルハウス
神戸市灘区六甲町1-6-21
11AM~6PM(日曜定休)
JR六甲道駅より徒歩5分/阪急神戸線六甲駅より徒歩6分
https://shop.wafelhuis.com/
(コラム執筆=安田洋平)